葉梨康弘・法務大臣が辞任した件についての、各紙の社説のリンクを貼り、必要に応じて検討する。
1.朝日新聞2022年11月12日社説「葉梨法相辞任 首相の判断 信頼揺らぐ」
(前後略)
死刑執行に対する厳粛な気持ちも、その最終判断を担う重い責務への自覚もうかがえず、後で撤回して済むものではない。
しかも、同様の言いぶりを、別の会合でも複数回にわたり繰り返していたというのだから、あきれる。多くの国が廃止に向かい、国内にも廃止を求める声がある死刑について、法務省は従来「慎重、厳正に臨む」と説明してきた。省のトップの軽々しい言動は、執行の正統性を根底から揺るがすものだ。
2.産経新聞2022年11月11日社説「主張 法相の発言 あまりにお粗末がすぎる」
(特に検討するところはないので、引用はない)
3.東京新聞2022年11月11日社説「法相と総務相 閣僚の適格性あるのか」
(前後略)国家が人命を奪う死刑制度の重大性や厳粛さを認識しているとは思えない軽率極まりない発言だ。今後、自ら死刑執行を決裁する可能性がある死刑囚や被害者遺族の心情への配慮も感じられない。
4.日本経済新聞2022年11月11日社説「職責の自覚欠く法相の辞任劇」
(前後略)死刑は究極の国家権力の行使であり、法相は公正かつ厳粛な法施行を担う立場だ。過去にも同様の発言があった。世界的に死刑廃止の流れにあるなかで、国内外から批判を招くと思い至らなかったとすれば適格性を著しく欠く。
5.毎日新聞2022年11月11日社説「死刑巡る葉梨氏の発言 法相の適格性欠いている」
(前略)
死刑は、有罪が確定した人の命を国家が奪う刑罰である。執行を命じる法相の職責は極めて重い。適格性を欠いていると言わざるを得ない。
(中略)
裁判員制度の下、一般市民も死刑判決に関わり、厳しい選択を迫られることがある。
世界的には死刑廃止が潮流であり、制度を維持する日本は少数派だ。日本弁護士連合会も廃止を求めている。そうした中で、法相の説明責任も重くなっている。
6.読売新聞2022年11月12日社説「法相辞任 軽口をたたくにも程がある」
(前後略)
世界では、死刑を廃止する国が増えている。制度を維持しているのは、経済協力開発機構(OECD)に加盟する38か国では、日本と米国、韓国だけだ。
日本は、犯罪の凶悪さや被害者の無念さを考慮して、死刑制度を維持している。制度を厳正に運用しなければならない立場にあるが、葉梨氏の発言には、その配慮が感じられない。
引用していない産経新聞もそうだが、死刑が問題であり、死刑を廃止すべきであるという文章がどこにもない。死刑に関して、日本の主要新聞全てがずれた議論に終始しており、(日本って野蛮な国なんだな)と思われても返す言葉がない。
特に6.が極めてミスリーディングなので補足する。
「経済協力開発機構(OECD)に加盟する38か国では、日本と米国、韓国だけだ」とのことだが、アメリカ合衆国は、2021年7月に「連邦政府による死刑執行を一時的に停止した」*1うえに、少なくとも23州で死刑が廃止されていると思われる*2。大韓民国は、2020年12月31日時点で死刑の事実上の廃止国であり*3、2021年においても死刑の執行がない*4。なお、中日新聞「韓国で死刑制度を巡る議論が再燃」(2022年9月7日7時6分(9月8日21時59分更新))
https://www.chunichi.co.jp/article/540291 によると、現在において憲法裁判所で議論中であるから、2022年の死刑執行もないと思われる。
まぁ、アメリカや韓国からすれば、(国家が人を殺す日本と一緒にするなよ)ということになるな。
ともあれ、人権問題なのだから、尊重する国が多数であればなおさらそちらの方向に行かなければならないと考えるので、死刑を廃止すべきであるし、新聞各社は読者に過度に媚びず、動向をきちんと書いて*5、そのうえで死刑廃止を主張すべきである。
*1:アムネスティインターナショナル日本「死刑廃止 - 最新の死刑統計(2021) 世界の動向(2022年5月24日更新)」
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/statistics.html
*2:BBC NEWS JAPAN「米ヴァージニア州が死刑制度を廃止 南部で初」(2021年3月25日)
https://www.bbc.com/japanese/56519221
*3:アムネスティインターナショナル日本「死刑廃止国・存置国(2020年12月31日現在)」
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/DP_2020_country_list.pdf
*4:*1を参照。
*5:書いてあるところがあるのは本文の通り。