清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

ルール変えても 気球落とせるか 疑問だな

 本記事の前提として、読売新聞オンライン「中国の偵察気球、米軍が撃墜…F22戦闘機が領海上空で空対空ミサイル発射」(2023年2月5日6時43分)のリンクを貼る。

www.yomiuri.co.jp

すなわち、アメリカが、中国の偵察用気球を撃退したことを発端とする。

 

 NHK NEWS WEB「日本上空の偵察用気球『撃墜可能』に? 政府 ルール見直す方針」(2023年2月15日20時15分)

www3.nhk.or.jp

によると、

 

今のルールでは、自衛隊が撃墜のために武器を使うのは、領空侵犯した機体による攻撃から身を守るための正当防衛や緊急避難に該当する場合に限られているため、政府は、内容を見直す方針です。

具体的には、無人の気球については、ほかの航空機の安全な飛行を阻害する恐れがあるなど、国民の生命や財産を守るために必要と認められれば、正当防衛などの要件を満たさなくても、武器による撃墜を可能にする方向で調整に入りました

という。

 

 事はそう簡単ではない。以下筆者のツッコミを入れてみる。

 

 まず、どういう趣旨で今まで「自衛隊が撃墜のために武器を使うのは、領空侵犯した機体による攻撃から身を守るための正当防衛や緊急避難に該当する場合に限られてい」*1たのかである。実は、「外国の軍用航空機が領域国の領空に許可なく侵入してきた場合、領域国は強制着陸をさせるかまたは退去を命じることができ、命令に従わないときは武器の使用も認められるとされてきた」*2はずだからである。まさか、憲法第9条第2項「戦力」の問題が生じるということはないんだろうね?*3

 

 次に、仮に憲法第9条第2項「戦力」に該当しないとして、撃ち落とせるかは難しいのである。

 

 もちろん、アメリカが慎重を期したように*4、日本も慎重を期さないといけないが、それに加えて。

 

 そもそも軍用航空機なのか、民間航空機なのかが問題である。民間航空機であれば、武器の使用ができないので、原則として撃墜できないからである*5。もっとも、日本の領空内に無操縦者の航空機を飛ばす場合は、国際民間航空条約(シカゴ条約)*6第8条により、「締約国の特別の許可を受け、且つ、その許可の条件に従うのでなければ、その締約国の領域の上空を操縦者なしで飛行してはならない」のだが、シカゴ条約第8条違反だからと言って武器を使用していい根拠が見つからなかった(シカゴ条約第3条の2(a)*7参照)。

 

 というわけで、今回の政府のルール見直しは、軍用航空機とわかった航空機に適用できるというだけで、実際に適用できる場面は多くなさそうだというのが、筆者の見解である。

*1:NHK NEWS WEB「日本上空の偵察用気球『撃墜可能』に? 政府 ルール見直す方針」

*2:国際法[第5版]』(松井芳郎ら、有斐閣Sシリーズ、2007年)pp.161-162。

*3:筆者の手元にある、芦部信喜憲法[新版補正版]』(岩波書店、1999)p.62によると、「政府は(略)”他国に侵略的な脅威を与えるような攻撃的武器”(原文は傍点であるが、「””」でくくる表現に改めた)は保持できないと説明してきている」とある。今回のルール変更によってこの説明が崩れ、自衛隊憲法第9条第2項の「戦力」に該当し、憲法違反ではないかという疑念がありうると筆者が思った。

*4:「「中国の偵察気球、米軍が撃墜…F22戦闘機が領海上空で空対空ミサイル発射」」によると、「バイデン氏は1日、地上に大きな被害を及ぼすことなく任務を実施できるようになり次第、気球を撃墜することを承認した」とある。

*5:国際法[第5版]』p.162によると、「締約国は民間航空機に対して武器の使用を差し控えなければならず、要撃の場合に航空機内の人命および航空機の安全を危うくしてはならないことなどを定める規定を整備した」とされる。となると、どちらかがわからない場合は、撃墜できないことになる。

*6:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-T2-1149_1.pdf なお、中国が批准等をしているかは未調査。

*7:外務省HP 「国際民間航空条約の改正に関する1984年5月10日にモントリオールで署名された議定書」(

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-H10-0129.pdf

)参照。