清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

領海領空 国際海峡 日本と中国 もめている

 最近起こった日中*1関係のトラブルについて、海洋法に関する国際連合条約*2

、ならびに、国際民間航空条約*3を用いて検討する。なお、松井芳郎ら.国際法.第5版,有斐閣,2007,(有斐閣Sシリーズ).も参照した*4

 

 まずは日本の海上自衛隊護衛艦すずつきが、中国領海を航行した件(7月4日の事例。後述①による)について。

 

 参考になるサイトを2つ。

 

 ①"海自の護衛艦 一時 中国領海を航行 防衛省がいきさつを調査"。NHK NEWS WEB.2024-07-11.

www3.nhk.or.jp

,(参照2024-09-16).

 

 ②"海自艦、中国領海に一時侵入 「技術的ミス」と釈明".日本経済新聞電子版.2024-07-11.

www.nikkei.com

,(参照2024-09-16).

 

 ①によると、「各国の艦艇は、沿岸国の秩序や安全を害さなければ領海を通過できる『無害通航権』が国際法で認められています」のことだが、②によると、「林氏*5は『中国の法律は外国軍艦が中国領海に入る場合、政府の承認を得る必要があると定めている』と説明した」という。

 

 無害通航権が原則も、政府の承認を求めることも問題なく、退去要求も可能である(国連海洋法条約第30条)。②によると、「中国の浙江海事局は4〜5日、浙江省沖に実弾射撃演習のための航行禁止区域を設定していた。海自艦はこの演習を監視するため同区域に近づき、一時的に中国領海へ入ったとみられる」のだから、中国政府の対応は、国際法的に何ら問題がない、となる。

 

 次に、③"中国軍領海侵入 身勝手な海洋法の解釈許すな".読売新聞.2024-09-10.

www.yomiuri.co.jp

,(参照2024-09-16).の事例である。

 

(前略)中国軍の測量艦が先月末*6、鹿児島県沖のトカラ海峡に侵入し、領海内を約2時間航行した。海上自衛隊の艦艇と哨戒機が領海に入らないよう測量艦に呼びかけていたが、応じなかった。

…(略)…

 測量艦の航行について、中国外務省は「トカラ海峡は国際航行に使用される海峡だ。船の通過は正当で合法だ」と主張している。

…(略)…

 2016年に中国軍艦艇がトカラ海峡を航行した際も、中国は同様の主張をしていたが、トカラ海峡を「国際航行に使用される海峡」に位置づけるのは無理がある。

…(略)…

 トカラ海峡は、重要な海上交通路であるマラッカ海峡などと異なり、各国の航行実績が乏しいことから、日本政府は国際海峡には当たらないという立場だ。

 そもそもトカラ海峡の近くには、自由に航行できる海域があり、あえて領海を通らなくても、航行のルートは確保されている。(以下略)

 

 中国政府と読売新聞の見解が分かれているということである。

 

 中国の主張は、トカラ海峡は、国連海洋法条約第37条の「公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡」であるとして通過通航権があるとするのに対し、読売新聞は同第38条第1項但書の「海峡が海峡沿岸国の島及び本土から構成されている場合において、その島の海側に航行上及び水路上の特性において同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在するときは、通過通航は、認められない」という規定を主張している。というわけで、"中国軍領海侵入 身勝手な海洋法の解釈許すな"の末文、「政府は、中国が法解釈を改めないのなら、国際海洋法裁判所などに提訴することを検討してはどうか」は一理ある。

 

 最後に、④"中国機による領空侵犯について".防衛省自衛隊.2024-08-26.

www.mod.go.jp

,(参照2024-09-16).について。

 

 領空には無害航行権はない(国際民間航空条約第1条)。だから、日本の対応が正しく、中国側のコメントも歯切れが悪い。羽田宗太郎,里見稔."中国国防省「深読みしすぎないで」 中国軍機の領空侵犯で報道官".朝日新聞デジタル.2024-08-29.

www.asahi.com

,(参照2024-09-16).

 

 以上検討したが、無害通航権があるからといって領域国が何もしないとは限らないこと、トカラ海峡が国際海峡と解釈するか否かで見解が分かれること、領海と領空で違うことがわかれば、読者としては読んだかいがあっただろうし、筆者も書いたかいがあるとしたものである。

*1:日本国と中華人民共和国のこと。以下においては、「日本」、「中国」と表記する。

*2:

以下、「国連海洋法条約」と表記。条文は、"国際法研究室 produced by Kyo Arai"から。

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/unclos1.htm

,(参照2024-09-16).なお、日本も中国も、国連海洋法条約の締約国である(ともに1996年締約。外務省HPより。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaiyo/pdfs/teiketsu.pdf

,(参照2024-09-16).

*3:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-T2-1149_1.pdf

,(参照2024-09-16).

なお、日本も中国も締約国であることにつき、

https://www.icao.int/about-icao/pages/member-states.aspx

,(参照2024-09-16).

*4:p.136-139,ならびに、p.159-162.

*5:②によると、「中国外務省の林剣副報道局長」のこと。

*6:おそらく2024年8月31日。"トカラ海峡通過は通過通航権の行使 中国外交部".AFP BB NEWS.2024-09-03.

https://www.afpbb.com/articles/-/3536922

,(参照2024-09-16).