清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

判決と 産経社説 検討す

共産党の『赤旗』を配布した元社会保険庁職員(公務員だった)が、国家公務員法第102条(政治的行為の制限。罰則は第110条第19号で3年以下の懲役または100万円以下の罰金)違反に問われた事件において、東京高等裁判所は、元社会保険庁職員に無罪を言い渡した。本エントリーでは、毎日.jp「旧社保庁職員の『赤旗』配布:東京高裁判決(要旨)」(毎日新聞 2010年3月30日 東京朝刊。以下「判決要旨」。http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100330ddm012040188000c.html
、ならびに、この判決に批判的な産経新聞社説「【主張】公務員の赤旗配布 適正さ欠く逆転無罪判決」(2010.3.30 03:35。以下「産経社説」。http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100330/trl1003300335000-n1.htm
を検討する。

まず「判決要旨」。「被告(ママ)の配布行為は、国民の法意識に照らせば、国の行政の中立的運営及びそれに対する国民信頼の確保を抽象的にも侵害するものとは常識的に考えられず」の理由は、「地方出先機関の旧社会保険事務所に勤務する厚生労働事務官で、職務内容、職務権限は利用者からの年金相談に対しコンピューターからのデータに基づき回答等を行うという裁量の余地のないもので、管理職でもなかった被告が、休日に勤務先やその職務とかかわりなく、勤務先の所在地や管轄区域から離れた居住地の周辺で、公務員であることを明らかにせず、無言で居宅や事務所等の郵便受けに政党の機関紙や政治的文書を配布した」ことが「行為を目撃した国民がいたとしても、国家公務員による政治的行為であることを認識する可能性がなかったものと認められる」からである。これはいいとして、それなら、「中央省庁幹部のように地位が高く、大きな職務権限を有する者によって行われた場合」に「勤務時間外に行われたとしても、(中略)国民の目から見ても行政の中立的運営に強い疑いを招きかねない」とはならないのではないか?具体的妥当性追求はいいが、落としどころは難しい。

それはさておき、先述の本件事実認定ならば、「国家公務員の政治活動の自由に必要やむを得ない限度を超えた制約を加え処罰対象とするもの」という判断は、直感的で申し訳ないが、妥当な判断だと思う。

人事院規則で禁止されている政治的行為には、職種や職務権限、職務内容、あるいは勤務時間外ということから、過度に広範に過ぎると想定されるものがあるが、具体的な法適用の場面で適正に対応することが可能であることを考えると、過度の広範性や不明確性を大きくとらえ、法及び規則の規制をすべて違憲であるとすることは、現時点においては、決して合理的な思考ではない」と、法令違憲とはしていないことにも好感が持てる。立法府の判断を無下に違憲としておらず、謙抑的と判断できるからである。

「単独の判断による単発行為であったことは明らか」という事実認定も、被告人に有利に働いたか。刑事裁判の基本を踏まえている。

「わが国の国家公務員に対する政治的行為の禁止は諸外国、とりわけ西欧先進国に比べ非常に広範なものとなっていることは否定しがたい」→これは私の知る限りではよく言われている。最新版は見ていないが、芦部信喜憲法』(岩波書店)でも、問題視している。

地方公務員法との整合性にも問題がある」→地方公務員法第36条には「政治的行為の制限」(ここは「判決要旨」からの引用ではない)という見出しはあるが、それをよく見ると、懲戒される可能性はあるが、刑事罰(同第60条~62条)は科せられない。これからすると、国家公務員法第102条違反だけ罰するのは、たしかに「整合性にも問題がある」。

「規則による政治的行為の禁止」は、不明。
 
「北海道猿払(さるふつ)村の同種事件を有罪とした最高裁判決(74年)以降の時代の進展、経済的、社会的状況の変革の中で国民の法意識も変容し、表現の自由言論の自由の重要性に対する認識は一層深まって」いるとは思うが、「公務員の政治的行為についても許容的になっているように思われる」とは残念ながらなっていない(あとで「産経社説」を検討)。

「判決要旨」の最後、「さまざまな分野でグローバル化が進む中、世界標準という視点からも改めて考えられるべきだ」も、特に言及の必要がないほどの妥当な意識である。

次は「産経社説」。

「今回の高裁判決はこれを大きく踏み出しており、疑問だ」なんて、なんて薄っぺらいんだ。たしかにその通りかもしれないが、それなら判例を変えればよい。

「高裁判決は、最高裁判決以降、冷戦の終息などに伴って国民の法意識や公務に対する意識が変わり、公務員の政治的行為にも許容的になってきたとしている」と、「だが、いまなお、日本の周辺は中国の軍拡や北朝鮮の核開発など新たな脅威も生まれている」はつながらないと思うが。冷戦って、アメリカとソ連の軍事衝突を伴わない軍拡競争じゃなかったっけ?

「最近も北海道教職員組合(北教組)の違法献金が発覚し、公務員の政治的行為に対する国民の目はますます厳しくなっている」→正直申し上げて、産経得意の論点ずらし!とせざるを得ない。「違法献金」が疑われているから問題なんじゃないの?教員がちゃんと仕事をしていれば、「公務員の政治的行為」という問題はほとんど問題にならないはずだが。

「地位や身分にかかわらず、政治活動を制限されるのが法の趣旨である」なんて、判決文読んだの?それが問題だから詳細に事実認定してるんじゃないですか?

「まず国益を踏まえることが重要」ねぇ。「世界基準」を守ろうとするのは国益を踏まえていると思うけどねぇ。「世界基準」からかけ離れているほうが問題じゃないの?人権を尊重しない野蛮国!という評判が「国益を踏まえ」ているようには思わないが。

「今回の判決が公務員全体の職場規律などに与える影響が懸念される」→え?休日の行為が?勤務時間と休日をごちゃごちゃにしてもねぇ。

以上検討したが、当ブログの判断は、判決妥当、「産経社説」ダメ、だが、予想をすると、直感的で申し訳ないが、最高裁で覆ると思う。

*ウェブサイトは2010年3月30日現在・アクセス