「憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない」などの傍線部分が、この事件では重要だ。しかし、ちょっとわき道にそれてみたい。
「憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない」ともある。
さぁ、国の立法政策はどうすべきか? もちろんいろいろあろう。しかし、都合のいい時だけ国際比較するのは恣意的。ゆえに、この件も国際比較してみる。
詳しくは買うなり借りるなりして手にしていただくとして、傾向を書く。
国政選挙に関しては、調査対象31か国(不明の国を含む)のうち、23か国が、選挙権、被選挙権、ともに認めていない。傾向としては、国政選挙権、被選挙権は、ないとしてよい(もちろん、付与する選択肢を否定するものではない)。
地方選挙は、どちらも認めていないのは、不明の国を除いては、日本だけである。選挙権を認めていないのは日本だけ、被選挙権を認めていないのは、日本、カナダ、ハンガリー、ニュージーランド、韓国の5か国。その他の国は、何らかの形で選挙権や被選挙権を認めている。「居住または永住権取得を条件として参政権を付与」は、選挙権14か国、被選挙権9か国。よくわからないが、「居住または永住権取得以外の要件を条件として付与」は、選挙権11か国、被選挙権11か国(ただし、すべてが同じ国ではない)ある。先進国クラブとされるOECD (ウィキペディア「先進国」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%88%E9%80%B2%E5%9B%BD )参照)の主流は、何らかの形で、地方選挙に限り、選挙権、被選挙権を(ともに、または選挙権のみ)認めているのだ。
極めて合理的だろう。「民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態」(最高裁平成7年2月28日判決より)なのだから。
このエントリーを書いたきっかけは、2012年3月28日21時からのNHK総合「ニュースウォッチ9」。在日韓国人がやっと在外投票が認められたというニュースを見てである(日本については、外務省HP「在外選挙」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/senkyo/ )参照)。
大学生の在日韓国人3世は、2世の父に「帰化しなければならない時もある」と諭される。この見解は悪くないが、日本人としては、先進国としての責任を果たすために、何らかの形で地方選挙の参政権を付与するように努力すべきだ、というのが、本エントリーでの結論である。