清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

事件から 教訓得られる いい番組

私は、岩波書店の「今月の新刊」のパンフレットを書店に取りに行くのを月課(?)としている。「サヨク」と言われようが、岩波書店の本は面白い観点で書かれている本が多いと思うので、月課となっている。もっとも、最初は、岩波文庫(いわゆる教養のスタンダードの一つとなっている文庫。もちろん、この文庫だけで十分なわけがないし、要らぬ本もある)の最新刊を探るのが目的だったが、いつの間にか岩波文庫に興味を失い(何が出ているかを把握しているので)、惰性になっている面もあるが。

 
それはさておき、「今月の新刊」のパンフレットの2013年2月号で紹介されている本の一つに、『永山則夫(このエントリーは、以下も、文中敬称略。清高補足) 封印された鑑定記録』(2月27日発売)があった。この本は、2012年10月14日22時から放送された、NHK-EテレETV特集 永山則夫 100時間の告白~封印された精神鑑定の真実」(以下、「ETV特集」、又は「番組」と表記)をベースとして作られたものと思われる(著者の堀川恵子は、番組のディレクター)。そこで、録り溜めておいたDVDレコーダーの中から、ETV特集を観た。
 
あらすじをまず書いてみると、精神科医の石川義博は、連続殺人を犯した永山則夫(以下「則夫」と表記し、敬称略)の精神鑑定をした。しかし、裁判の場でそれが活かされることはなかった(後述)。厳罰化が進んでいるとされる現状で事実を見ないことを危惧した石川は、封印した100時間にも及ぶ精神鑑定のテープを番組取材班に公表することとした。貧困(金欲しさ)の犯行とされていたが、事件の背景には、幼少期からの過酷な人生があった、という内容である。
 
秋葉原の事件でも、派遣社員だった犯人が、最初は貧困が言われたり、その後は家庭問題が言われたり(とりあえず、ウィキペディア秋葉原通り魔事件」を参照。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%8B%E8%91%89%E5%8E%9F%E9%80%9A%E3%82%8A%E9%AD%94%E4%BA%8B%E4%BB%B6#.E5.8A.A0.E8.97.A4.E6.99.BA.E5.A4.A7.E3.81.AE.E7.B5.8C.E6.AD.B4
と原因探究が賑やかだったが、則夫の事件も、仮に裕福だったなら起こっただろうか、と思った。貧困と家庭環境って、卵か鶏か、という話のような気がする。
 
以下、番組で印象に残ったことを取り留めもなく記述すると、
 
則夫の父はギャンブルに明け暮れ、母・ヨシは行商で父の分まで働く毎日。則夫はヨシの長女・セツに育てられるも、セツは精神病院に入院。
 
則夫の父に愛想を尽かし、女の子だけを連れてヨシは離婚を決意し、則夫をはじめ男の子は置き去りに。
 
則夫の母のヨシも、子供の頃はセツのように子守をしていたが、母の再婚相手から暴行を受ける(そのうち母からも)。そして、ヨシはヨシの母に心中の道連れにされる。鑑定書いわく、「永山家の二代にわたる悲劇」とのこと。
 
置き去りにされた則夫は、7つ上の次男から連日暴力を受ける。次男は修学旅行に行けず、集団就職。何らかのわだかまりがあっても不思議はない。
 
則夫は父に似ていたので、ヨシは則夫が泣いても殴ったり、叱り飛ばしていたという。
 
そんな則夫も、セツが、則夫が住んでいた板柳に帰ってきた時は、怠学しなかったが、近所の男と寝ている所を則夫は見た。その後、セツは妊娠7ヶ月で堕胎。則夫が遺体を運ぶ役に。
 
父が突然板柳に来たが、則夫の兄たちに木刀で殴られ、追い返される。それ以来板柳に来なくなるが、則夫の記憶には「百円をくれる」父しかないとか。則夫が中学1年の時に死亡。死体を見て「夢をこわされ」たという。
 
則夫の幼少期は誰が見ても可哀想なものだと思うが、その影響があるからか、事件を起こすまでに何度も自殺未遂を試みているという(石川の鑑定だと18回)。鑑定によると、長女の事件と父の死が絶望を引き起こしたとか。
 
則夫の中学時代は、粗暴というわけではなかったそうで、中学2年次の担任いわく「不良ではなくちっこくてかわいい子」だったとか。しかし、そんな則夫も、兄の就職を機に妹に暴力を振るうようになる。
 
果物屋に就職するも、呉服屋でのシャツの窃盗を上司に知られる。そのショックからか、20回近く職場を転々とする。そのパターンは、最初は一生懸命に働くが(定時制高校の委員長になったこともある)、あとで荷物をおいて逃げるというもの。
 
則夫には、逃走璧に加え、被害妄想があると鑑定で認定されたが、現在で言えばPTSDの症状をあらわしていたようだ(幼少期に過酷な体験をすると、左の海馬が小さくなるが、それはPTSD(なお、則夫の事件の石川鑑定は、日本発のPTSD視点の精神鑑定書)によく現れる症状だという。
 
次男は父親同様ギャンブルをするが、その次男の部屋に則夫は入り浸りになる。かつては暴力を振るわれていたのに。しかし、次第に次男に疎んじられる。
 
則夫の生活は、過酷な肉体労働(3日やると足が立たなくなるとか)もあって苦しいが、ある日、米軍横須賀基地でピストルを見つける。これが悲劇の引き金で、東京や京都で野宿を見咎められ、警察に行こうと勧めたガードマンや見回りの人をピストルで射殺。逃走するも、お金がなかったのか、函館や名古屋でタクシー強盗殺人をする。そんな則夫は「死刑になっていいと思った」という。
 
このような状況では、「精神病に近い状態」(石川鑑定より)と認定されてもおかしくはない(心神喪失や耗弱の適用可能性がある)。そして、第2審の無期懲役判決も、決しておかしくはない。しかし、1審と最高裁は、石川鑑定を重視せず(2審も採用したとはいえないが)、死刑判決。1審担当の豊吉彬・元裁判官によると、4人も殺しておいて死刑にしないと制度が揺らぎかねないとして死刑以外の結論を採用不可というのがはじめにありきだったという。もっとも、裁判官の中には、死刑は無理だという人も相当数いたとも。
 
則夫の事件を振り返ってみたが、もちろん、貧困に陥ろうが、幼少期に問題があろうが、立派にやる人もあろう。しかし、永山家の場合、長男は詐欺で服役後、消息不明、次男は42歳で死亡、妹は心を病み、めいは行方不明。過酷な環境は生きる上で辛いのを否定するのは難しい。
 
以上、あらすじと、印象に残ったことを書いたが、子どもの貧困はなるべく解決されるべきこと(きっかけは、阿部彩『子どもの貧困』(岩波新書)あたりからか)、性教育の大切さ(家族計画の大切さ)、被害者でもない第3者としては被害者だけに感情移入するのではなく加害者にもすべきこと(事実を正確に知るのに大事。裁判員制度導入で、一般市民にも求められる資質になった)、親学の大切さ(何かの本で読んだが、アメリカでは親学があるらしく、一定の効果が認められたとか)などの教訓が得られる、いい番組だった。本も期待できるかも。