清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

受刑者に 選挙の権利 与えよう

朝、読売新聞を読んでいたら「受刑者の選挙権 「制限は違憲」には疑問が多い(10月13日付・読売社説)」(2013年10月13日1時34分。以下、「読売社説」と表記。http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20131012-OYT1T01234.htm

)に出くわした。個人的に興味深かったので、以下検討する。
 
憲法学の世界(と言っても、世間一般でこの人は知っていなければいけないとされる、芦部信喜先生(故人)の本に載っているというだけの話だが)における在監者の人権のうち、既決受刑者の人権(公職選挙法第11条参照)が問題となっている。①(*本エントリーの参考文献(エントリーの末尾)参照)のp104によると、「在監関係においても、伝統的な特別権力関係論はもはや通用しない。在監者の人権制限を正当化する根拠は(中略)憲法が在監関係とその自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていること(一八条・三一条)に由来する。この憲法が予定している在監関係を維持するために在監者の権利を特別に制限することは許されるが、その制限は、拘禁と戒護(中略)および受刑者の矯正教化という在監目的を達成するために必要最小限度にとどまるものでなければならない」という。一方、②のp274によると、「被拘禁者が置かれている在監関係の性質の相違に応じて、個別的・具体的な検討を必要とする」(傍点略)が、「選挙権のように、在監関係の性質上当然に認められないもの」とある。
 
ところで読売社説は「その規定がどのような事情で明白に違憲となったのか、判決は示していない。説得力を欠くと言わざるを得ない」とあるが、芦部先生の②の選挙権についてもそれが当てはまる(選挙権が「どのような事情で明白に」(読売社説)「在監関係の性質上当然に認められない」(②)のかを「示していない。説得力を欠くと言わざるを得ない」(読売社説))。だから読売社説の「「違憲」との考え方が学説上の通説になっていないことを認めている」も説得力がない。
 
戻って「在監関係においても、伝統的な特別権力関係論はもはや通用しない。在監者の人権制限を正当化する根拠は(中略)憲法が在監関係とその自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていること(一八条・三一条)に由来する。この憲法が予定している在監関係を維持するために在監者の権利を特別に制限することは許されるが、その制限は、拘禁と戒護(中略)および受刑者の矯正教化という在監目的を達成するために必要最小限度にとどまるものでなければならない」(①p104)からすると、(例えば、)選挙違反と関係なく「 「単に受刑者というだけで、著しく順法精神に欠けるとは言えない」とも言及し、受刑者の選挙権を奪うことについて、「やむを得ない事由があるとは言えない」」と言ったとすれば、選挙権を与えないことが「拘禁と戒護(中略)および受刑者の矯正教化という在監目的を達成するために必要最小限度にとどまる」とは言えない、と言いうるので(選挙権があるから戒護や矯正が出来ないわけでもないし、拘禁されていたとして投票が不可になるわけではない(同じく拘禁されている未決拘禁者は現行法で選挙権がないとはなっていない)、読売社説に説得力はない。
 
念の為に他国の動向も書いておくと(と言っても、一種の孫引き。文責は清高)、『国際人権法よもやま話』(北村泰三(「国際法・国際人権法を専攻する大学教員」とのこと。http://y-kitamura.cocolog-nifty.com/about.html
)・著)2011年1月31日「イギリス政府、受刑者に選挙権を与える法案を準備中」(http://y-kitamura.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-a10b.html
)によると、「受刑者には選挙権が認められないというのは、一見のところ常識のようなのですが、必ずしもそうではありません」とのこと(詳細は「イギリス政府、受刑者に選挙権を与える法案を準備中」を御覧ください)。また、倉田玲(アキラ)・立命館大学法学部教授の論文「受刑者等の選挙権と合衆国の連邦制度 (上)」(2013年10月13日アクセス。http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/07-4/kurata.pdf
)によると、「受刑者の選挙権が剥奪されている問題をめぐっては(中略)欧州人権裁判所とカナダ最高裁判所南アフリカ憲法裁判所が、現に受刑者として刑事施設に拘置(略)中であることを選挙権の消極要件として法定することも普通選挙権の保障に反するという主旨の判断を異口同音に提示して、それぞれが管轄する法域に対し、それらに先駆けて同種の消極要件を全廃している諸国に合流する方向を指示した」とのこと。どうやら、既決受刑者に選挙権を与えるのは、予断は許さないが、国際的な傾向がありそうだ。
 
芦部説も根拠薄弱、読売社説は国際動向にも疎い、というわけで、この件は、大阪高等裁判所の勝ちのようである。
 
なお、読売社説にもう少しツッコミを入れると、「本来、重要な憲法判断は、判決が判例として拘束力を持つ最高裁に委ねるのが筋」とあるが、法的根拠はない(それどころか、昭和25年2月1日最高裁大法廷判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319123339003772.pdf
)によると、「裁判官が、具体的訴訟事件に法令を適用して裁判するに当り、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によつて裁判官に課せられた職務と職権であつて、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であることを問はない。憲法八一条は、最高裁判所違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であつて、下級裁判所違憲審査権を有することを否定する趣旨をもつているものではない」のである)。
 
*本エントリーの参考文献
芦部信喜憲法』(岩波書店。最新版での確認を乞う。清高が用いたのは新版補訂版(1993年))
② 同  『憲法学Ⅱ 人権総論』(有斐閣、1994)