清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

公訴時効 遡及適用 すべきでない

少々古いが、読売新聞2009年6月6日朝刊13面(仙台では)に、公訴時効を延長したり、廃止したりすることを提言した記事が載っている(鬼頭誠さん執筆)。

公訴時効の延長・廃止は、リスクはあるが、それなりの主張として尊重する。

しかし、気になったのは、この記事が、仮に公訴時効が延長・廃止になった場合に、過去の事件に遡及して適用させることを提言していることである。

記事を要約すると、日本弁護士連合会は、冤罪を生むと言う理由で反対しており、鬼頭さんは「被害者への考慮は薄い」だの「金科玉条」だのと書いて批判している。一方、遡及賛成論者に対しての批判はなく、諸澤英道常磐大学教授(被害者学の権威)の「裁判機会を残すこと自体が被告人に不利益とか重罰化と見るのは思い込みで、罪刑法定主義(憲法第39条)の拡張解釈だ」といったコメントを載せたり、公訴時効期間の改正規定は実体的規定でないとして遡及適用を認めた大審院判例を引用したりしている。

しかし、そもそも、法律は、憲法第39条にかかわらず、不遡及が原則である(法律不遡及の原則。『法律学小事典』(有斐閣)にも項目がある)。私的自治の原則が支配する私法関係ならさておき、国家と国民の間の関係である公法関係で、よほどの理由がない限り遡及がまかり通るならば、法的安定性や予見可能性を害するし、法律に対する信頼もなくなるだろう。

「よほどの理由」とあるので、一応私なりに検討すると、仮に公訴時効が不当だとしても、そのルールでやってきたのだから、時効があったときの事件を遡及させないとしてもやむを得ない一方(最初からわかっていたこと)、もし遡及されると、被告人や証人になったときのリスクがあるので(冤罪、面倒)、やはり、公訴時効があったときの事件は、公訴時効が延長・廃止になっても、その旨の規定の遡及適用はすべきではない。以上の通りであるから、日本弁護士連合会の意見は、何等問題がない。

読者の皆様は善良ゆえ(一部読者はどうしようもないのがいる。コメント欄を御覧になればわかる)、被害者の立場は考慮できよう。しかし、法的問題は、一方の立場に偏するのではなく、バランスを考えることが必要である。

参考文献
我妻栄民法案内1 私法の道しるべ』(現在は勁草書房。私が参照したのは一粒社版)
大塚仁『刑法概説(総論)』(第3版。有斐閣。最新版で確認されたし)