清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

伊藤忠 改造のための 研修か

実は、以前、asahi.com(現朝日新聞デジタル)で、伊藤忠商事が雪山研修をするという記事を見て知っていたが、当方の都合で記事にしなかった。今日(2012年6月13日)、読売新聞朝刊12版25面に「新入社員に雪山研修」(「おとなになったゆとり世代・上」)として取り上げられたので、検討する。

伊藤忠商事には登山研修があるという。「2泊3日のテント生活」(「新入社員に雪山研修」より)で、「午前3時に起床」(同)して山に登るという。

記事を読み進めると、「ここ数年、企業の新人研修には、マナーや知識を教える座学より、厳しさを体で覚えさせる体感型が増えている」(同)とのことで、中には、「『理不尽と思われるくらいでもいい』」(同)というリクエストもあるとか。「背景には、企業が、ゆとり世代に『意識の甘さ』を見ていることがある」(同)という。

これらは、今に始まったことか、実は、そうではない。

カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本/権力構造の謎〔上〕』(ハヤカワ文庫、1994年。原著1989年)p329「典型的な“サラリーマン像”」と題した切に、本エントリーで取り上げた読売新聞の記事のようなことが書かれている。引用してみよう。

「採用に続いて通常、一連の象徴的な通過儀礼が執りおこなわれる」(『日本/権力構造の謎〔上〕』p330)が、その中に「新入社員教育」(同)がある。「お辞儀」(同)という「座学」(「新入社員に雪山研修」)もあるが、「同時に並行して、新入社員のものの考え方の改造もおこなわれる」(『日本/権力構造の謎〔上〕』p331)という。その内容は、例えば、「一片の布を下半身にまとっただけの状態で凍りつくような川に長々とつからせたり、自衛隊員と一緒に二四時間行進させたり(中略)という極端な荒療治をする会社もある」(同)という。雪山登山も似たようなものだ。その狙いは、ウォルフレンさんは「組織全体の目的にさからおうとする個性は潰し、服従の習慣を教え込むこと」(同p332)と分析している。読売新聞の記事(「新入社員に雪山研修」)では、「少子化の中、個性尊重の教育を受けたことで、この世代の若者は『"自分のありのままの良さを活かす”“自分なりに頑張る”といった価値観が強く、周囲に合わせようとしない傾向がある』」という、企業研修を専門とする会社の分析の下、「『今のままでいい』という自足的な思考は、競争や挑戦を避けることにつなが」るとして、「『自分の殻』を早い段階で取り払おうと、企業は厳しい研修で揺さぶりをかける」とあるが、「個性は潰し、服従の習慣を教え込む」(『日本/権力構造の謎〔上〕』p332)とほぼ同じだろう。

『日本/権力構造の謎〔上〕』をさらに読み進めると、p332に、「一般に、いまどきの大学新卒者にはこのような特訓がとりわけ必要だと考えられる(中略)学校教育のものたりなさという環境の中で育った若者には、今まで以上にこのような特訓が必要になった、と日経連のスポークスマンは説明する」とある。本エントリーの読売新聞からの引用とそっくりな話である。

というわけで、日本には、1989年ぐらいから、20年以上考え方が変わっていない企業があるのかもしれない。ビジネス界は保守的だとされても、20年以上も変わらないのでは、イノベーションが生まれるのか、という疑問が生じる。

もっとも、どんな共同体にも通過儀礼があるとも聞く。ウォルフレンさんはオランダ出身のジャーナリストだが、オランダには通過儀礼はないのだろうか、日本の企業研修とは違うのだろうか、という疑問も持った。