1.日本で保守と目される*1産経新聞と読売新聞が、選択的夫婦別姓*2についても崩壊しているという話。以下においては、産経新聞と読売新聞の社説を引用しつつ、私見を述べる。
2.産経新聞編
"<主張>立民の別姓法案 家庭に不和のタネまくな".産経新聞.2025-05-07.
,(参照2025-05-12).
立憲民主党が、選択的夫婦別姓制度の導入を図る民法改正案を国会に提出した。
子供に片方の親との別姓を強制したり、家庭に不和のタネをまいたりする悪法だ。
…略…
夫婦が婚姻時に同姓か別姓かを選ぶ内容で、子供の姓は婚姻時に決め、兄弟姉妹の姓は統一する。すでに結婚している人は、法施行から1年以内であれば旧姓に戻せる経過措置を講ずるという。
子供が片方の親と別姓になる「強制的親子別姓」は致命的欠陥だ。疎外感を持つ子供が出てくる。経過措置で、片方の親と別姓になると告げられる子供が受ける衝撃にもなんら考慮していない。…略…
(略)
子供をどちらの姓にするかをめぐって祖父母らも絡み争いになりかねない。(略)
…略…
病院など多くの場で、親子や夫婦関係の確認が面倒になるなど余分な社会的コストが生じる問題もある。
…略…旧姓使用の拡大で対応すれば十分である。
…略…
まず、産経新聞の社説を検討する前にあらかじめ述べておくと、両紙の社説のきっかけは、立憲民数等が民法改正案を国会に提出したことである。"「この改革なくして日本の前進なし」選択的夫婦別姓法案を提出".立憲民主党.2025-04-30.
,(参照2025-05-12).をご一読。
「子供に片方の親との別姓を強制したり、家庭に不和のタネをまいたりする」と大きく出ているが、別姓しか認めないわけではないし、フランスや中華人民共和国のように、法的には別姓という国もある*3から、不適当である。
「法施行から一年以内」については、"選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について".法務省.
,(参照2025-05-12).のQ.11にあることである。
「子供が片方の親と別姓になる『強制的親子別姓』は致命的欠陥だ。疎外感を持つ子供が出てくる。経過措置で、片方の親と別姓になると告げられる子供が受ける衝撃にもなんら考慮していない」は、経過措置についてのみ考慮すればいいが、子供を馬鹿にするのもいいかげんにした方がいい。親がそう決断しただけの事である。
「子供をどちらの姓にするかをめぐって祖父母らも絡み争いになりかねない」とあるが、憲法第24条も知らないのだろうか。あと、証人が必要(民法第739条第2項)も、届け出るのは、「婚姻をしようとする者」(戸籍法第74条)であって、祖父母ではない*4。
「病院など多くの場で、親子や夫婦関係の確認が面倒になるなど余分な社会的コストが生じる問題もある」はその通り*5も、それゆえ夫婦別姓を廃止した国は1つもないから、心配はいらない。
「旧姓使用の拡大で対応すれば十分である」ともならない。論より証拠で、"88%の女性役員が「旧姓の通称使用は不便」。経団連、選択的夫婦別姓の早期実現を求める提言を発表"。MASHING UP.2024-06-11.
,(参照2025-05-12).、ならびに、"旧姓使用と海外駐在の相性は最悪」“併記”はさらなる混乱も――日本だけが別姓で結婚できないからこそ生じる“応急処置”の限界"。日テレNEWSNNN.2025-05-04.
,(参照2025-05-12).をご一読。
3. 読売新聞編
"選択的夫婦別姓 家族の一体性を損なわないか".読売新聞.2025-05-11.
,(参照2025-05-12).
内容は2.で取り上げた産経新聞社説とほぼ同じなので、何点か引用しつつ論じる。
(2022年。筆者補足)当時の案は、子供の姓について、出生のたびに父母が協議して定める、としていた。夫婦双方の姓を残す狙いがあったが、それでは兄弟姉妹の姓がバラバラになってしまう、といった批判を浴びた。
このため立民は今回、夫婦が別姓を選ぶ場合、結婚する際に子供の姓をどちらの姓にするか決めることにした。法制審議会の1996年の答申を踏襲したものだ。
つまり、立憲民主党案は、批判にこたえており、妥協の要素がある。それすら認めないという人は、民主主義には向かない。なお、筆者は、「出生のたびに父母が協議して定める」という案は否定しない。中華人民共和国でも採用されている*6。
(略)日本維新の会は、戸籍に旧姓を通称として記載し、法的効力を与える法案を検討している。
とあるが、これでは、2つの姓に法的効力が与えられる側が優遇されているので、新たな差別を生むからダメである。
家族制度の見直しは社会全体に重大な影響を与える。拙速に結論を出すべきではない
というのは本気なのだろうか。「法制審議会の1996年の答申を踏襲したもの」と同じ社説にあるので矛盾である。すなわち、「拙速」どころか、約30年放っておかれているのである。
4.なお、今回取り上げた選択的夫婦別姓の話は、外務省."女子差別撤廃条約第9回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(仮訳(PDF)".女性:女子差別撤廃条約.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100752113.pdf
,(参照2025-05-12).の11.と12.に詳しく、筆者の見るところ、立憲民主党が提出した法案のみが勧告の要請に応えている。それすら理解しないで、ためにする反対に終始した、産経新聞と読売新聞の社説は、自由主義・民主主義社会ではありえない社説であるから、廃業を検討すべきかもしれない。
https://kiyotaka-since1974.hatenablog.com/entry/20241210/1733839312
*2:法務省によると、「選択的夫婦別氏」だが(法務省HPより。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html
,(参照2025-05-12)、勝手ながら巷間で言われている「夫婦別姓」を用いる。
*3:婚姻と姓、子どもの姓に関する制度については、栗田路子ら.夫婦別姓:家族と多様性の各国事情.筑摩書房,2021,(ちくま新書1613).のp.viii-p.ixにある「各国の制度一覧表」を参照。
*4:祖父母が証人になることは当然ある。"【2025最新】婚姻届の証人は誰に頼むのが正解?証人の条件や頼むときのマナー・注意点、書き方までご紹介".結婚スタイルマガジン.
https://www.niwaka.com/ksm/radio/wedding-ready/registration/base/10/#anc01
,(参照2025-05-12).を参照。
*5:栗田路子ら.夫婦別姓:家族と多様性の各国事情.筑摩書房,2021,(ちくま新書1613).にも書いてあるので、ぜひご一読ください。
*6:*3の文献参照。