角川新書から『韓国語楽習法 私のハングル修行40年』(2022年)を出している黒田勝弘*1へのインタビューが、BookBang(ブックバン)というサイトに掲載されている。タイトルは、「韓国での統一教会はどんな存在? 問題になったことはないの? 韓国在住40年の黒田さんに聞いてみた」。
まず、読者にとって一番大事なところを。
――そもそも韓国でキリスト教徒が多いのはなぜですか。
黒田:一般的にいえば背景として、
①韓国には伝統的に「ハヌニム(天の神)」という絶対神(一神教)が存在するという考え方があった(ハヌニムは国歌にも登場する)
②日本統治時代に教会が韓国人を保護した
③解放後、とくに朝鮮戦争の後、米国のキリスト教会が物心面で人びとを救援した
④急速な産業化、都市化による故郷喪失者の心の拠り所になったなどが挙げられます
とのこと。特に②が大事である。なぜなら、②については、Min Jin Lee『パチンコ』(邦訳は文藝春秋、2020。上下2巻)にも書かれているからである。主人公のキム・ソンジャは牧師のパク・イサクとともに大阪で新たな生活を始めるが、その場面において、当時の大日本帝国下のキリスト教の境界がどのような役割をしたかが書いてあるので、それを読めば、黒田説が正しいことがわかると思う。
それからすると、肝心なインタビューの大半は重要度が低い。なぜ韓国では統一教会*2が問題にならないのか。それは統一教会がマイナーだから、ということだからである。
また、有害なところもある。以下引用する。
これ、あったらまずいだろ。オウム真理教がサリンを撒いたら反日感情でも悪くなるのかい?
「純粋で思い込みが激しい」という韓国人の気質に合ったからという説もありますね
もまずい。人それぞれだろう。「思いこみが激しい」を普通は肯定的評価としない。そういうものを民族性ゆえと言うのは大変危険で、ナチズムにつながりかねない。
――韓国では異端視されたマイナーな統一教会が、日本で多くの信者を集め、莫大な資金を獲得できたのはなぜだと思いますか。
黒田:(略)韓国がらみであえて日本的な背景を考えれば、日韓の歴史にかかわる贖罪(しょくざい)意識があったと思います。
昔、韓国を併合し支配したことに対する「すみません」という意識ですが、戦後日本では教育やメディア、大学など知識人世界ではこれが広範囲に存在しました。今でも慰安婦問題やユネスコ歴史遺産問題などをめぐって、日本では韓国の立場を支持し支援する運動が結構あるじゃないですか。統一教会はこうした日本人の対韓贖罪意識を、つまり原罪意識としてうまく利用し、大学での原理研究会などを通じて真面目(?)な若者を引き込んだように思います。
以下は余談になりますが、したがって日本社会では左翼・リベラル系と反共の統一教会系が対韓贖罪意識では共通していて、日本社会を悩ませているということですね
とは何かよくわからない。筆者はそもそも統一教会の勧誘を受けたことがないのでわからないが*3、韓国への贖罪意識で勧誘されるものなのだろうか。現時点では暫定版だが(修正の可能性あり)、やや日刊カルト新聞*4のサイトの検索窓に「統一教会 勧誘」と打ち込んだ結果は、
http://dailycult.blogspot.com/search?q=%E7%B5%B1%E4%B8%80%E6%95%99%E4%BC%9A%E3%80%80%E5%8B%A7%E8%AA%98 である。黒田の言うような「日本人の対韓贖罪意識を、つまり原罪意識としてうまく利用し、大学での原理研究会などを通じて真面目(?)な若者を引き込んだ」について、検索結果の1ページ目の記事からは発見できなかった。「日本社会では左翼・リベラル系と反共の統一教会系が対韓贖罪意識では共通していて、日本社会を悩ませている」もよくわからない。「対韓贖罪意識」の何が悪いのかがさっぱりわからない。他者の民族自決権を侵害したわけだから当然の意識ではないだろうか。
ただ、一方、
黒田:韓国人にとっても本当は大いに気になることなんですが、それゆえに韓国メディアは伝えることを遠慮しているように見えますね。
理由は二つあって、一つは今回、統一教会非難というのはいわば韓国が批判、非難されているようなものですから、そんなイヤな話は知りたくない、伝えたくないという拒否感。もう一つは(略)。
同じ韓国モノでもドラマやKポップの日本での人気ぶりはしょっちゅう大きく伝えられ、みんな気分がいいのですが、統一教会関連はいささか迷惑という感じでしょうかね
というのは、似たようなことはどこでもあろうが、困ったことだと思う。この部分は黒田説が正しいと思う。