産経新聞社『正論』2010年1月号p80、大峯泰廣(おおみねたかひろ。元警察官)「千葉法相よ、犯罪者の高笑いが聞こえぬか」を読んだ。元警察官らしく(?)身内に甘い内容だったので、以下、批判する。
まず題名。私は、刑務官のほっとした微笑が見えますな(理由もなく人を殺したい人はそんなにいない。読者の皆様もそうだろう)。
それはさておき、まずはp82・1段目8行で「取り調べの全過程を録画・録音する『可視化』の導入」を批判しているが、任意性のない自白が現在でもあるので説得力ゼロ。全面可視化以外でどうすれば任意性のない自白かどうかをチェックしたり、なくすことが出来るかの対案を出してほしい(自由民主党が野党を批判する時のロジックと同じ。ただ、政治の世界では、野党は批判が仕事であり、自由民主党の主張は筋違い)。
読み進めると、p82・3段目9行で「海外から伝わる警察腐敗など、日本では考えられない」と自画自賛。そのとおりだと思うが、だからといって、全面可視化、ならびに死刑廃止がダメなことの根拠にはならない。
p83・2段目4行「犯罪者に悪用」は懸念する。しかし、例えば黙秘権だってそうだし、それは人権を守るためにはやむを得ないだろう(それとも、「悪用」されないように、人権侵害もO.K?でも、それでも「悪用」されるんだろうな)。
p83・3段目2行で、死刑廃止反対の理由として、「犯罪被害者及び遺族感情を全く考慮しないばかりか、日本人の優れた規範意識を根底から崩しかねない」とする。全然ダメ。第1に、犯罪被害者・遺族だって個性的だし(死刑にしてほしくない人もあろう)、感情の考慮ゆえに妥当でない刑罰を科す危険性を考慮していないからである(感情を持つな、とは言っていない)。こういう人が、藤井誠二さんみたいに、自分の気に入らない被害者は「少数」(『殺された側の論理』(講談社)にあるフレーズ)と書いたり、自己責任(古いが、イラクで人質にされた人の事件を想起。犯罪被害者なのだから、バッシングはダメ!)にしちゃうんだろうな。第2に、「日本人の優れた規範意識」ということは、「日本人以外は劣った規範意識」と読め、差別である。第3に、日本の刑法が適用される場合に、引き渡し拒否のリスクを何等考慮していないからである(そういう国があると聞く)。第4に、同じ行為なのに、ある国は死刑にならず、日本(などの存置国)は死刑になるのはおかしいからである(要は、人権の国際化を無視している、ということ)。
p83・3段目12行では、(死刑に犯罪抑止力がないという)「データ」が「机上の空論」だという。しかし、「データ」が「机上の空論」だったら、何を持って政策を決めればいのだろう。自分が見たままの主観的偏見で決めろというのか?
p83・3段目(手元の資料で行数不明)「廃止後に、やっぱり凶悪犯罪が増えました」とあるが、データは?このような事例が少ないので死刑廃止を主張するのではないのか?
p84・3段目18行「『悪いことをしても黙っていればごまかせるかもしれない。/最悪でも死刑にはならないよ』」とあるが、斜線前は今でも正しいし、死刑にならなくても長期拘禁されるだろうから、問題はあるまい。