ついに、日本政府の朝鮮学校差別の一端が成就した。
テレ朝ニュース「朝鮮学校の高校無償化対象除外を政府決定」(2013年2月20日16時4分。上からアクセス)によると(動画はなく、テキストのみ)、「文部科学省が高校無償化に関する省令を改正し、朝鮮学校が正式に無償化の対象から除外されました」とのこと。
で検討したが、本エントリーでは、ちょっと原理的なところから話を始めよう。
そもそも論として、高等学校という中等教育は、無償教育を導入すべきであることについては、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第13条第2項(b)(「この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。」。なお、第1項もご一読。外務省HPより。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_004.html)
に示されている。そして、平成24年9月に、この条文に関する留保を撤回した(外務省HPより。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html)
。付言すると、この条文から、私は、各種学校でない「高等学校の課程に類する課程」(後述する2013年2月20日改正前の文部科学省令第1条第1項第2号(ハ))も就学支援金の対象にすべきだと考える(SYNODOS JOURNAL「朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A 金明秀」(2012年5月11日。http://synodos.livedoor.biz/archives/1929030.html)
参照。後述の公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律を見ると、支給対象は「生徒又は学生」なのだから、憲法第89条の問題はクリアできると考えている)。
また、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律第4条では、「高等学校等就学支援金(以下「就学支援金」という。)は、私立高等学校等(第2条第1項第5号もご一読)に在学する生徒又は学生で日本国内に住所を有する者に対し、当該私立高等学校等(その者が同時に二以上の私立高等学校等の課程に在学するときは、これらのうちいずれか一の私立高等学校等の課程)における就学について支給する。」とある。
そして、2013年2月20日改正前の「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則」(平成二十二年四月一日文部科学省令第十三号)第1条第1項第2号には、「各種学校であって、我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち、次に掲げるもの
イ 高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって、文部科学大臣が指定したもの
朝鮮学校は、2月20日改正前の文部科学省令の第1条第1項第2号(ハ)に該当するかが問題だったはずである((イ)や(ロ)を無視する趣旨ではないが、本エントリーでは検討しない)。そして、「無償化を しない理由は ないはずだが」で、私の調査の限りでは、「高等学校の課程に類する課程を置くものと認められる」と認定していいと結論した(別の結論もありうるが、「課程」(課程(カテイ)とは - コトバンク
)なのであり、それが高等学校に似ていれば該当するとすべきで、そうでないなら文部科学大臣の恣意が問題である)。
)なのであり、それが高等学校に似ていれば該当するとすべきで、そうでないなら文部科学大臣の恣意が問題である)。
ところが、「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令案に関するパブリックコメント(意見公募手続)の結果について」(2013年2月20日アクセス。http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000617&Mode=2)
にある「結果概要等 (提出意見の概要及び意見に対する考え方)」のPDFファイル(サイトからアクセス)を見ると、無茶苦茶な理由のオン・パレードだった。
「拉致被害者が帰ってこないので、朝鮮学校に支給すべきでない」に対する文部科学省の考え方が「朝鮮学校については、拉致問題の進展がないこと、朝鮮総連と密接な関係にあり教育内容、人事、財政にその影響が及んでいることを踏まえると、現時点での指定には国民の理解が得られないと考えております」だって。文部科学省の官僚って憲法がまるでできていないんだね。人権って、「国民の理解」で決まる問題じゃないんだけど。
除外反対派の意見に対しては、以下のコメントが。
②「高等学校就学支援金制度は、『高等学校等における教育にかかる経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与する』ことを目的としており、『高等学校等』の中に、高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定める各種学校が含まれていますが、その具体的な範囲を定めることは、文部科学大臣の権限に属しています」
③「憲法14条1項は、国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく、相対的、比例的な平等を保障するものである。つまり、合理的理由のない差別を禁止するものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由として、その法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、同項に違反するものではないと解されています」
その他もあるが、以上のコメントについて検討する。
まず①。④と矛盾する。①ならば、学校教育法第1条の「高等学校」だけを対象とすればいいが、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律ではそうなってはいない。「国交」で言えば、横浜中華学院(学院沿革によると、「中華民国」「民国」とある。つまり、台湾系(2013年2月20日アクセス。http://www.yocs.jp/YOCS/about.9.php)
。ウィキペディア「横浜中華学院」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E5%AD%A6%E9%99%A2)
も参照)が高等学校等就学支援金の対象になっている(文部科学省HP「高等学校等就学支援金制度の対象として指定した外国人学校等の一覧」(平成24年2月1日現在。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1307345.htm)
ことと矛盾する。
次は②。もちろん省令第1条第1項第2号(ハ)はそうなっている。ならば、文部科学省が指定した要件に該当していない、となればいいが、示せていない。また、「高等学校の課程に類する課程」の文言に反したり、関係ない要件を付け加えたりしていいとも言えない。
そして③。「合理的理由のない差別」だから問題にしているんだけど。高等学校の課程に類する課程を広く認める趣旨の法令のはずが、「国民の理解を得られない」が「合理的理由」だというのは無理だろう(これが通るなら、どんな人権も「国民の理解を得られない」からと言って剥奪しうる)。
最後の④。朝鮮学校だって、「各種学校となっている外国人学校についても、日本国籍を持つ生徒も含め多くの生徒たちが、後期中等教育段階の学びを行なっていることから高等学校等就学支援金の対象としています」となるので、理由になっていない。
それにしても、このような稚拙な文部科学省の論理で差別された朝鮮学校の生徒からすればたまったものではないな。今からでも遅くはない。省令第1条第1項第2号(ハ)を復活させ、朝鮮学校も(そして、各種学校でない学校も広く)無償化の対象とすべきである。このままでは日本政府は訴訟で負けたり差別国家のレッテルを貼られたりするリスクを背負うだけである。