筆者は最近『植民地朝鮮の日本人』(高崎宗司、岩波新書、2002)という本を読了し、Amazonレビューを寄稿した。タイトルは「文献豊富 知識信用 営み不変」である。よかったらご一読ください。
その理解を深めるためにネットサーフィンをしたところ、週プレNEWSが2015年9月4日にアップした「日韓併合と竹島問題を完全に失念、安倍総理は『戦後70年談話』で韓国にケンカを売った!」
という記事を見つけたので、以下引用しつつ紹介する。なお、鈴木宗男さんと佐藤優(まさる)さんとの対談で、小峯隆生さんの取材・文章である。
鈴木*1 安倍総理が戦後70年談話*2を出されました。(中略)私が特に違和感を持っている部分が、ここです。
「日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」
実はロシアは当時、植民地支配をしてないんです。なのに、なぜこんなことになったのか(以下略)
佐藤 (略)「日露戦争は」以下の部分は学者答申の中に入っていませんでした。ということは、後で誰かから小耳にはさんで入れちゃったんでしょうね。
(中略)
鈴木 戦後70年談話で、なぜ110年も前の日露戦争に話が飛ぶのですか?
佐藤 官邸には外務省から兼原信克さんという"すごい戦略家"が言っています。この方は日経新聞出版から『戦略外交原論』*3という本を出しているんですが、そこに、「(イギリスの)名誉革命の結果、マグナ・カルタが採択された」とあります*4。
名誉革命は1688~89年、マグナ・カルタ採択は1215年です。時間が四百数十年くらいズレて、時代が逆転しても問題ない人ですから、40、50年の逆戻りは誤差のうち。唐突に日露戦争が出てきても関係ないんでしょう。
それはともかく、この談話は確実に韓国にケンカを売っているんです。日本は日露戦争の5年後、1910年にどの国を併合しました?韓国です。これ、客観的に見て植民地にしたわけですよね。
「日露戦争は、植民地支配のもとにあった。多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」とのことですが、その中には韓国は入らないということですよね。こんなことを書いて韓国人が怒らないはずがない。
しかも、1905年1月、日本に来襲するロシア・バルチック艦隊の見張り所を造るために、日本政府は竹島を日本領だと宣言しました。韓国はそれが日本の侵略の第一歩と認識している。
つまり、日韓併合*5と竹島問題をこの70年談話は完全に失念してるんです。ところが、安倍総理は韓国に思いっきりケンカを売ってることに、おそらく気がついていません。
でたらめな知識で談話を発表し、無意識のうちに韓国にケンカを売っている安倍晋三ということである。ただ、この対談は少々ラフである。
日露戦争を持ち出すのが唐突なのは正しいが、「実はロシアは当時、植民地支配をしてない」は微妙なところである。ロシアが中国に進出していたのは歴史的事実である*7。
「韓国はそれが日本の侵略の第一歩だと認識している」というのも甘い。「竹島って 日本領土じゃ なかったの?(尖閣は 死守で2島は ぜひ返還?(2))
kiyotaka-since1974.hatenablog.com
でも書いた『植民地朝鮮の日本人』(高崎宗司、岩波新書、2002)を読めば、それ以前から、大韓帝国の方を無視して領土にずかずかと踏み込んだ様子がわかる。また、1900年に大韓帝国皇帝の勅令で独島(竹島)を領土としたことも。
なお、いわゆる戦後70年談話には、以下のくだりがあることも付け加える。
事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。
(中略)
我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。
こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。
それにも関わらず、鈴木宗男、佐藤優、両氏のように読めるような談話を発表してしまったところに、安倍晋三の無意識の朝鮮半島憎悪が出ているというのは酷にすぎるのだろうか。しかし、「隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み」*8と言ったにも関わらず、和解で済むはずのいわゆる徴用工問題において要らぬ介入をしたりして日韓関係をぶっ壊したわけだから、筆者は酷ではないと思っている。