不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したとき*2も、同様とする。
これについて判例は、「不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、それゆえ、その主張が信義則違反または権利の濫用に当たることはない」としていた(最高裁平成元年12月21日判決。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/709/052709_hanrei.pdf
)。
ところが、2024年7月3日の最高裁大法廷判決においては、以下のようになった。
本件請求権が改正前民法724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない。したがって、上告人らの本件請求権の行使に対して被上告人が除斥期間の主張をすることは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。*3
びっくりの変わりようである。被害救済を重視するようになったのだろうか。
これで思い出したのが、日本において感情的反発が目立った、いわゆる徴用工判決である。山本晴太.法律事務所の資料棚アーカイブ.にある、「2018.10.30新日鉄住金事件大法院判決」
https://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdfである。
によると、
被告*4が消滅時効の完成を主張して原告らに対する債務の履行を拒絶することは著しく不当であり、信義誠実の原則に反する権利の濫用として許容することはできないと判断した
という。
おそらくは、大韓民国民法*5第766条第2項を適用し、韓国では除斥期間とされていないということなのだろう。
ともあれ、被害に遭った人が救済されるのは、悪いことではないだろう。
*1:有斐閣判例六法.令和5年版,有斐閣,2022,p.592.を参照。
*2:平成29年改正後は、民法第724条第2号において「不法行為の時から20年"行使しない"(強調筆者)とき」と表記された。
*3:原審で国を勝たせた判決を破棄差し戻ししたものとして、
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/163/093163_hanrei.pdf
.。なお、原審で敗訴した被告の上告を棄却したものについては、
https://ja.wikisource.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95_(%E5%A4%A7%E9%9F%93%E6%B0%91%E5%9B%BD)#
,(参照2024-07-05).ただし、それ以外のソース未確認ゆえ、注意。