いわゆる徴用工問題、歴史学的には朝鮮人強制連行に関連して、日韓請求権協定をどう解釈するかについて、筆者なりの知見を得た*1ので、それを紹介する。
まずは、日韓請求権協定第2条第1項を。
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に”解決”*2されたこととなることを確認する。*3
この条文について、『裁判の中の在日コリアン*4 日本社会の人種主義ヘイトを超えて』(在日コリアン弁護士協会(LAZAK)、現代人文社)pp.90-102で面白い解説をしていた。以下は、筆者がp.102の表についてまとめたものを記す。
日本:①「解決」(日韓請求権協定第2条第1項)の対象→すべての個人の請求権
②「解決」の法的意味→((外交保護権放棄+個人請求権残存*5)→(2000年から、外交保護権放棄+個人請求権残存も救済なき権利))韓国:①「解決」の対象→((すべての個人請求権)→(2005年から、個人の請求権のうち、反人道的不法行為・サハリン問題・被爆者問題は請求権協定の適用外))
②「解決」の法的意味→外交保護権放棄+(個人請求権消滅→1995年から個人請求権残存)
ゴールポストを動かすのはお互いさまということである。このような場合、どう解釈すればいいのだろうか。このことにつき、筆者の手元にある、内田貴『民法Ⅰ〔第2版〕』*6(東京大学出版会、1999)pp.249-251をヒントとして、筆者なりに考えてみる。
上記の日韓請求権協定第2条第1項締結時(1965年)には、日本は個人請求権を消滅しないと、韓国は消滅すると解釈した。この場合に日韓請求権協定は不成立となるわけではなく、最終的には「条理*7や信義則(1条2項*8)に従って解釈することになろう」*9ということになる。もちろん、民法解釈が法律解釈学の基本であるとして、国際法を民法のように解釈しなければいけないということにはならないが。
となると、植民地支配された方に不利に解釈することに条理があると考える人はおそらく皆無であるから、宗主国だった日本に不利になると思う。
したがって、筆者が知る限りでの民法解釈学の知見を借りると、やはり日本の主張を妥当とすることはできない。いわゆる徴用工問題における判決については、放っておく(被告企業が和解すればよかったのに判決確定にまで至ったのだから裁判の執行やむなし)のが最善だったと今でも思う。
*1:筆者は正しいと思って書くが、実際に正しいとは限らないので、読者の批判があればコメント欄に書いてほしい。
*2:””は筆者が入れた。
*3:実際の条文は外務省HPにある。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S40-293_1.pdf
*4:現在手元にないので、「増補改訂版」かは不明。以下に記すページ数は、筆者が読んだ本のページ数とする。
*5:日本国民からの請求を封じるためだとか。
*6:当然、版は変わっているので、読者は最新版で確認されたし。項目は「当事者の与えた意味が食い違う場合」。
*7:法律の話なので不適当であるという批判は甘受するも、とりあえず「条理」について知りたい方は、コトバンク「条理」をご一読あれ。