タイトル通りだが、それなりに名の知れた人*1が、国際人権に無知であるという話。
まずはYahoo!個人、楊井人文(弁護士)「『日韓合意見直し』」勧告したのは国連の委員会でも国連の機関でもない」(2017年5月13日23時5分)のリンクを貼るので、読んでください。
以下、引用しつつ論じる。
この*2勧告をした「拷問禁止委員会」は、国連総会で採択された拷問禁止条約に基づいて設置された委員会で、いわゆる人権条約機関の一つ。国連に属する機関ではなく、委員会の見解は国連から独立した専門家のものであって、国連を代表するものではない。
(中略)
この記事本文を注意深く読めば「国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会」と書いてあるが、見出しの「国連委員会」はあたかも国連内部の委員会で、その活動が国連を代表しているかのような誤解を与える可能性が高い。
(中略)
日韓合意をめぐっては、潘基文国連事務総長(当時)が「正しい勇断下した」と評価したほか、バングーラ事務総長特別代表が「画期的」だと称賛し、元慰安婦らの尊厳回復のため、早期履行を訴える声明を発表していた(略)。
(中略)
人権条約機関は国連システムに入っていない*3
(中略)
【追記】
日韓合意については、2016年3月にも、人権条約機関の一つである女子差別撤廃委員会が批判的な見解を発表したことがある。これについて、国連事務総長報道官は同年3月8日の定例記者会見で、これは独立した委員会であって、事務総長はこの委員会に何の権限も及ばず、無関係と答えている(略)。(中略)
楊井は何をアツくなっているのだろう。「国連の委員会でも国連の機関でもない」から聴かなくていいとでも思ったのだろうか。
このような楊井の見解は、国際人権の概念を知っていれば、間違っていると、簡単にわかる。楊井の文章にある、拷問禁止委員会、女子差別撤廃員会は、日本が批准している、拷問等禁止条約、女性差別撤廃条約を根拠とした委員会であり、楊井の文章のように、(国際連合とカンケーねぇから無視していいんだ!)とはならない。日本が誠実に対応しないならば、それが非難されるというものである。
楊井って本当に無知だな、と思わざるを得ない。国際人権も知らないで「基本的人権を擁護(略)することを使命とする」*4弁護士を名乗っているんだもの。知識もなく信用できない楊井弁護士は、Yahoo!個人から足を洗うか、弁護士から足を洗うか、どちらかしかなさそうである。
次は論点を変えて。2023年3月21日にアップされた2つのツイートを紹介する。
ICCはブリュッセルの資金援助で運営されているお飾りのNGOで既に無用の長物。プーチン大統領への逮捕状で「ルールに基づく世界秩序」は崩壊へ。ICCはユーゴ解体での虐殺や9年に及ぶドンバスでの🇺🇦ナチ軍による戦争犯罪と大量殺人に一貫して無関心であった。https://t.co/31yfU1fY45 @bricsmediaより pic.twitter.com/n4d0dusicl
— アジア記者クラブ(APC) (@2018_apc) 2023年3月20日
(アジア記者クラブ(APC)(@2018_apc)のアカウントが2023年3月21日3時38分に発信したツイート)
国際刑事法廷ICCの実態。名前に騙されるな
— 宋 文洲 (@sohbunshu) 2023年3月20日
米国もロシアも中国も加盟していない国連と何の関係もない https://t.co/dMB6yuZ1MY
(宋文洲(@sohbunshu)が2023年3月21日7時23分にしたツイート)
「NGO」だとか「国連と何の関係もない」だとかよく言うよ。コトバンク「国際刑事裁判所」のリンクを貼るから、読者もご一読あれ。
日本大百科全書(ニッポニカ)の説明によると、
国連総会は、1989年国際法委員会に一般的なICCの設立について検討するよう要請し、そこで作成された規程草案に基づき1998年6月ローマで外交会議を開催、7月17日ICC設立条約を賛成120、反対7、棄権21で採択した。
云々とある。従って、本記事で紹介した2つのツイートは、フェイクと認定して間違いない。
このような無知な文章やツイートを紹介したお口直しとして、筆者は以下の2冊を勧めるものである。この2冊くらいは読んで、国際人権について正確に理解してほしいものである。
・『人権と国家-理念の力と国際政治の現実』(筒井清輝、岩波新書、2022)
・『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』(藤田早苗、集英社新書、2022)
筒井の本は、日本に甘いという欠点はあるが、一読すれば、自国を無視してはいけないとしても、外国の人権状況について自分事としてとらえないといけないという気持ちにさせる本である。藤田の本は、筒井の本とは異なり、日本の問題点を、藤田自身が当事者となったことも併せて書いてある。ぜひご一読を。
*1:筆者の主観。
*2:2015年になされた「日韓両外相共同記者発表」のこと。外務省HPより。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html
*3:原文は太字。
*4:弁護士法第1条。