清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

社説がね 壊れちまった 読売の

 世間ではよく「朝日新聞がぁ~」というのを見聞するが、社説の限りでは読売新聞の壊れっぷりも*1ハンパないという話。取り上げるのは以下の3社説。

 

①2023年4月22日社説「学術会議の改革 民間法人化も視野に入ろう」

www.yomiuri.co.jp

 

②2023年5月10日社説「入管法改正案 外国人の長期収容解消を急げ」

www.yomiuri.co.jp

 

③2023年5月13日社説「LGBT法案 拙速な議論は理解を遠ざける」

www.yomiuri.co.jp

 

 それではまず①。

 学術会議は2021年、自ら改革案をまとめ、会員選考の際には「外部有識者から意見聴取する」と強調していた。

 政府案はその具体策として、会員の選考プロセスに、第三者でつくる新設の「選考諮問委員会」を関与させることにしたまでだ。諮問委員会の意見を学術会議が「尊重」することも定めている。

 だが、学術会議の総会では政府案に「独立性が脅かされる」「政府の介入を許す」といった反対論が相次いだ。政府に法改正を思いとどまるよう求める勧告も採択した。自ら改革を約束しておきながら、これでは筋が通らない。

いえ、読売新聞社説執筆者が日本語を知らないだけの話で(苦笑)。『「意見聴取する」』と「『尊重』」は同じではない。学術会議の「反対論」で「何ら問題ないように思える」*2

 

 政府は、学術会議を「国の機関」にとどめずに、民間法人とすることも選択肢とせねばならない

も意味がわからない。どの機関であれ、政府が学問の自由(憲法第23条)を尊重して介入しなければいいだけの話である。また、国の機関だから独立性を保てる可能性もある。詳しくは『「私物化」される国公立大学』(駒込隆・編、岩波ブックレット、2021)を読んでほしいが、組織を変えたからといってよくなるわけではないのである。なお、筆者の見立てでは、国立大学の法人化と今回の日本学術会議の話な根本が同じで、日本政府の思い通り*3に研究させようということである。

 

 ここからは②の社説の検討である。

 

 改正案を巡り、衆院では与野党が修正協議を行った。難民審査を中立的に行う第三者機関の設置を求めた立憲民主党に対し、与党は設置を検討する案を提示したが、折り合わなかった。

 政党間協議を通じ、より良い立法を追求するのが政治の技術だ。改正案が十分ではないとしても、一定の改善につながる以上、早期に成立させるべきだ。

 主張が全て通らないからといって、法案自体に反対するような立民の対応は理解に苦しむ。

 

 野党の対応に苦しんでもしょうがないでしょ。法律案が問題か否かを論じればよろしい。筆者の印象では最近この類の話をよく見るが、政権与党が怖くて批判できないから八つ当たりをしているようにしか見えない。いやしくも政治について文章を書くならまずは政権与党への批判をすべきである。

 

 なお、筆者は、出入国管理法の改正案については不勉強なので、以下は別の本の引用でお茶を濁すこととする。筆者が最近国際人権について勉強になった本に、藤田早苗『武器としての国際人権(略)』(集英社新書、2022)がある。それらには、以下のような出入国管理法*4がらみの問題があるという。以下、引用する。

 

 入管法に抵触しているからという理由で即、難民を収容施設に収容することは、難民条約からしたら明らかに不適切な措置なのである。(p.258)

 

 日本政府は、退去強制事由に該当する疑いがあれば、逃亡の危険性がなく収容の必要性がない場合であっても収容が可能である「全件収容主義」を一貫して取ってきた*5。(中略)しかし、この「全件収容主義」は自由権規約第9条*6が禁じている恣意的拘禁にあたる可能性が高い。(p.259)

 

 刑事手続きでは、勾留は逮捕から最長23日間と決められているが入管収容に関しては上限が決められていない。(p.261)

 

 日本の制度上、入管の収容については、入管庁*7という一行政機関に裁量が与えられている。つまり、入管職員の決定を二次的に審査する独立機関がないのである。(p.262)

 

 迫害を受ける恐れがある国への追放や送還は、国際的に禁止されている。帰国すると拷問などの人権侵害を受けるおそれがある人は、いかなる場合であっても強制送還をしてはならない。これをノン・ルフールマン原則という。(中略)日本の入管法は拷問の危険性のある国への退去強制を明示的に禁止していない。(p.263)

 

 最低でも、以上に引用したことくらいは頭に入れて*8出入国管理法の改正の行方を検討すべきであると、自戒を込めて書くこととする。

 

 最後に③を検討する。

 心と体の性に違和感がある人たちに対する差別は許されない

は当然である。しかし、

 例えば、出生時の性は男性で、自認する性は女性というトランスジェンダーの人が、女性用のトイレを使いたいと主張した場合、どうするのか。スポーツ競技で、トランスジェンダーが女性の種目に出場することを認めるのか。

 トランスジェンダーにこうした権利を認めることになれば、女性の権利が侵害されかねない

と、馬脚を現している。どちらも、シスジェンダーの女性の権利を侵害していないし*9、シスジェンダーの女性の権利のみを尊重しているだけだとも言える。

 

 先進7か国(G7)の中で、LGBTに関する法律がないのは日本だけだ、といった主張は事実に反している。各国は、差別禁止の一般的な規定を設けているが、日本は最高法規法の下の平等を定めており、大きな違いはない

とあるが、憲法解釈学も知らないで書いているのがバレバレである。私人間では憲法の規定が直接適用されないのが原則である*10

 

 それぞれの国の歴史や文化、社会通念を認め合うことも、多様性の尊重と言えよう

ということになると、国際的な人権基準の意味がなくなる。国際人権規約を批准している日本には合わない。

 

 米国では、LGBTを子どもたちに教えるべきかどうかを巡って、対立が深まっているという

とあるが、それがどうしたのだろうか。すでにユネスコにおいて「教育セクシュアリティ教育ガイダンス」というのがあり、とりあえずそれに基づいて学べばいいだけのことである。試みに、SEXOLOGY制作委員会が作った、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス 3 ジェンダーの理解」(2023年5月15日アクセス。

https://sexology.life/data/3_understanding_gender.pdf

)を読んでほしい。

 

 以上検討したが、日本における発行部数ナンバーワンの新聞の社説がこれだけデタラメでは、日本が良くなるのは容易ではないと思った次第である。もっとも、新聞の社説や記事を鵜呑みにするのではなく、よく調べて、そのうえで考えればいいのだけれど。

*1:というより、「読売新聞の方が」か。

*2:本文①の社説の表現を拝借。

*3:具体的に言えば、軍事。

*4:正式名称は「出入国管理及び難民認定法」。

*5:②の社説ではこの問題点は触れられていない。

*6:市民的、及び政治的権利に関する国際規約第9条のこと。なお、原文の漢数字をアラビア数字に改めた。

*7:法務省の外局である出入国在留管理庁のこと。

*8:もちろん、書かれたことの妥当性を検討したうえで。

*9:自認しているジェンダーが同じだから。

*10:間接適用説という。もっとも、憲法第15条第4項、第18条、第24条、第27条第3項、第28条のように直接適用を認める条文もある。