清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

強制連行 中国人に 先例が(2)

 筆者は最近、『教養としての政治学入門』(成蹊大学法学部・編、ちくま新書、2019)を読了した。

 

 『教養としての政治学入門』は、政治や政治学に興味がある人にとって面白く読める本であった。統治機構の制度、公務員批判の問題点など、内容も多岐にわたるので、読めば興味を持てる人も多いと思う。

 

 ところで本記事では、『教養としての政治学入門』第7章「[日本政治外交史]戦後日本外交入門」を引用しつつ、日本と東アジアの第2次世界大戦後を考察するものである。

 

 日中国交正常化の過程において、以下に引用することが起こったという。

 

 第二の争点は賠償請求問題である。賠償は既に中国側が放棄する意向を示していた。だが、日本側は、中国側の主張する「賠償請求権」は、日華平和条約ですでに放棄されて解決しているので、法律的でない表現にしてほしいと希望した。これに対して中国側も強く反発した。周恩来は「蒋介石が放棄したから、もういいのだという考え方は我々には受け入れられない。これは我々に対する侮辱である」と非難している。

 

 このように交渉では鋭く対立する場面も見られた。だが、両国はこの問題で交渉を止めるつもりはなかった。最終的には共同声明の文面において、(中略)賠償については、中国側が賠償請求権から「権」の文字を落とすことで合意に至った。*1

 

 外務省HP「日本国政府中華人民共和国政府の共同声明」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html を見ると、たしかに第5条に「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」とある。全然気がつかなかった。ただ、先述の引用部分からすると、賠償請求権を放棄するということと同じと解釈してよい。

 

 『教養としての政治学入門』を読み進めると、p.215に以下の記述がある。

 

また、中国国内でも1980*2年代末から、日中戦争の損害について対日「民間賠償」の請求を求める動きが起こり始めた。

 

 この記述は、しんぶん赤旗「徴用工問題 記者『中国とは和解、韓国とは?』/官房長官『政府の発言、控えたい』」*3の「1990年代以降、中国や韓国からの強制連行問題では、日本鋼管(1999年)や不二越(2000年)、三菱マテリアル((20)16年)など、加害企業が被害者への謝罪と『見舞金』の支給などで和解した例もあります」と矛盾しない。もっとも、しんぶん赤旗の記事もツッコミ不足で、日本はそもそも個人請求権を消滅しないとしたのを*4都合が悪くなってゴールポストを動かした(裁判上では救済されないとした)というのが真相であることくらい付記しないと。

 

 また、産経新聞電子版「櫻井よしこ 美しき勁き国へ 三菱マテリアルの和解はやはり『追及』の始まりだった…官民協力して真実を国際社会に知らしめよ」*5をもご一読あれ。1ページには「日中間の戦時賠償は個人の請求権も含めて1972年の日中共同声明で解決済みのはずが」とある。

 

 このように、中華人民共和国が賠償請求(権)を放棄しても、「民間訴訟」*6が起こっており、これについて日本政府が「日中共同宣言で解決済みだろ!」と抗議したということを、筆者は知らない。

 

 最近、徴用工問題*7に動きがあり、被告企業が義務を負っている賠償金について、韓国の財団が肩代わりする*8一方で、求償権の放棄が盛り込まれなかったという*9

 

 この件に関連すると思われる、「財産および請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定*10(略称)韓国との請求権・経済協力協定」(いわゆる日韓請求権協定。外務省HPから。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/A-S40-293_1.pdf

第2条第1項には、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する*11」とある。先述の日中共同声明第5条「中華人民共和国政府は(略)日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」と、日韓請求権協定第2条第1項「両締約国は(略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」は、政府または国の行為であり、前者において「民間訴訟」*12が否定されないならば、何ゆえに後者に限ってそれを否定する*13のだろうか、いまだによく分からない。前記のしんぶん赤旗の問題意識の方が妥当である。

 

 というわけで、現時点で筆者は、調査の限りにおいて、日本政府が韓国政府に判決の執行の停止を求めたこと、ならびにそれに関連する措置*14を支持することができない。

*1:『教養としての政治学入門』p.207(井上正也・執筆)。なお、直後に台湾のことが書いてあるので、本記事とは関係ないが、読者に資すると思われるので特記する。

*2:原文は漢数字。

*3:2019年9月4日。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-09-04/2019090402_03_1.html

*4:詳しくは『裁判の中の在日コリアン(略)』(増補改訂版。LAZAX・編著、現代人文社、2022)pp.90-102をご一読あれ。

*5:

2017年1月9日1時。

https://www.sankei.com/article/20170109-XCXDLNS4HNMEPKVWXD75VGT5JU/

 

*6:『教養としての政治学入門』p.215。

*7:筆者の認識では、朝鮮人強制連行とされるものとほぼ同じ、または一部である。

*8:読売新聞オンライン「『元徴用工』賠償金、日本の経済協力で恩恵受けた企業が寄付金拠出…韓国が解決策発表へ」(2023年3月5日9時。

https://www.yomiuri.co.jp/world/20230304-OYT1T50307/

*9:産経新聞電子版「徴用工解決策に『蒸し返し』リスク 求償権不透明」(有料プラン記事。2023年3月10日1時。広池慶一・執筆。

https://www.sankei.com/article/20230310-XR5XONJVVFOZ7MAWS7D62MGCWI/

*10:広義の「条約」である。

*11:漢数字をアラビア数字に改めた。

*12:『教養としての政治学入門』p.215。

*13:確定判決の執行を止めようとしているから。

*14:いわゆる輸出管理強化のこと。