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同様、日本のメディア(新聞を代表とする)は、大韓民国(以下、「韓国」と表記)関連になると、解説ではなく、アジテーション(
) になるという話。
文在寅・韓国大統領の「年頭の記者会見」(後述①による)についての社説を各紙が書いているが、それを検討する。
①(社説を取り上げる順番は「売れるため 韓国叩く 社説かな」同様、発行部数順。なお、東京新聞は中日新聞でカウントする。読売新聞はブログアップ時点で本エントリーに関係する社説を掲載していない)朝日新聞デジタル2021年1月20日社説「文大統領会見 解決へ実効的な行動を」
まずタイトルからおかしいよな。徴用工判決であれば民間同士で話し合えばいいし(徴用工は「朝鮮人強制連行」と言われることがあるが(外山大『朝鮮人強制連行』(岩波新書、2012)、中国人強制連行であれば三菱マテリアルがすでに和解している。
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をご一読)、慰安婦合意についても筆者の知っている限りすでに2度見直しを勧告されている。
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をご一読。
「日本政府も、韓国の国際法違反だと突き放すだけではなく」(①)もおかしい。日本政府が詳細な理由を説明していないし、仮に主権免除における絶対免除主義の採用であれば、日本の裁判所も採用していないし、国際法の世界でも多数派ではない。『国際法[第5版]』(松井芳郎ほか著、有斐閣Sシリーズ、2007)p105をご一読。日本政府の説明すら分析できないなら新聞社を廃業すべきだろう。
②東京新聞2021年1月12日社説(文在寅・韓国大統領の会見は1月18日だが、関連しているので取り上げる)「元慰安婦訴訟 外交通じた問題解決を」
「今回の判決は、この合意を何も評価していない」(②)って、本気で書いてるの?まさか、現地報道のみを鵜呑みにして書いたの?
山本晴太弁護士『法律事務所の資料棚 アーカイブ』「ソウル中央地方院2021.1.8 日本軍「慰安婦」訴訟 判決全文」(
http://justice.skr.jp/koreajudgements/30-1.pdf
)5エ(2)でちゃんと評価されてますよ、「原告らが主張する被告に対する損害賠償請求権は上記合意の適用対象に含まれると言うことはできないから、上記合意により原告らの被告に対する損害賠償請求権が消滅したとは言えない。」(27ページ目)と。
「文在寅(ムンジェイン)政権の姿勢がある。被害者の声が反映されていないとして一五年の合意を否定し」という事実がないのも「ソウル中央地方院2021.1.8 日本軍「慰安婦」訴訟 判決全文」から明らかである。p27によると「①外交部は 2017 年 7 月 31 日、長官直属の「韓日日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォース」(委員長 1 名、副委員長 2 名、民間委員 3 名、外交部委員 3 名)を設置し、上記合意に対する評価を実施したが、2017 年 12 月 27 日、上記タスクフォースが発表した報告書は上記合意について「両国外交長官共同発表と首脳の追認を経た公式的な約束であり、その性格は条約ではなく政治的合意」であるとした。②上記合意が両国外交長官の共同発表と首脳の追認を経た公式的な約束ではあっても」とある。「否定」(②(東京新聞社説のこと))はしていない。また、それに関して見直し勧告が2度あることも既述。
「司法判断だけを尊重すれば被害者救済につながるのか。韓国政府も、よく考えてほしい」も何も、韓国は独立した司法権を持つというだけの話である。大韓民国第六共和国憲法第103条。『[新版]世界憲法集』(岩波文庫、2007)p363。韓国の権力について書くなら、まずは憲法を調べないとダメだが、岩波文庫レベルも調べないのでは信用度0である。
③毎日新聞2021年1月19日社説「文大統領会見と日韓 関係改善には行動が必要」
「まず注目されるのは、慰安婦問題に関する2015年の日韓合意を「両国政府間の公式合意」と認めたことだ。これまでは合意に否定的な態度を示し、実質的な骨抜きを図ってきた」って、前から認めていることについて既述。見直し勧告2回も同様。日本の新聞の社説って、事実を調べることなく、願望に基づいて書くものなのだろうか?
「徴用工問題でも、韓国で差し押さえられた日本企業の資産の現金化は「望ましくない」と明言した。外交的解決を図り、韓国政府が原告を説得する必要性にも言及した。」とあるが、執行されればおしまいのものを止めるのは難しい(筆者の調査の限り、大統領が止められる手段は、ない)。日本政府や被告がテーブルにつくことの否定にもならない。
④日本経済新聞2021年1月23日社説「文氏の対日発言を具体化せよ」(有料会員限定ゆえ、著作権法第32条第1項「公表された著作物」ではないと筆者は解釈する)
韓国においては日本の植民地支配は不当なのだから、それに従うべきだろう(韓国に管轄権がないということを認めさせるのは難しいので、日本の植民地支配の不当性がなくなることはない。ただし、あくまで韓国国内において)。そのうえで、徴用工問題であれば被告企業の、慰安婦問題であれば日本政府が知恵を絞るべきだ、としかならないので、社説のタイトルからしておかしい。
⑤産経新聞2021年1月20日社説「文大統領の会見 言葉ではなく行動で示せ」
「徴用工も慰安婦をめぐる問題も国際法を踏みにじって」も何も、被害妄想がはなはだしいなぁ。管轄権が韓国にあれば韓国の法に基づいて判断するのは当たり前である。そしてどちらの件も「国際法を踏みにじって」(⑤)という事実はない。
「韓国政府は2005年、国交正常化時の外交文書公開に伴い、日本側が拠出した無償3億ドルに個人補償問題の解決金が含まれているとの見解を明らかにした。これをまとめたのが当時の盧武鉉政権であり、「民政首席秘書官」を務めていたほかならぬ文氏だった。」としても、仮にそれと矛盾する判決が出れば、その判決に従うのは当然である。それは韓国も日本も採用している三権分立ゆえそうなる。
どうも日本の新聞社は、韓国の国家の仕組みや事実すら調べず、願望に基づいて社説を書いているようである。最近の新聞社の不振の一因はこういうところにあるのかもしれない。
2021年1月25日追記
⑥(追記なので①のところで書いた順番に従わなかった)読売新聞2021年1月24日社説「慰安婦問題 日本の努力を幅広く伝えたい」
「サンフランシスコ平和条約では、各国が請求権を放棄した。他国に対する個人の損害賠償請求を認めることになれば、戦後国際秩序の基礎を揺るがしかねない」って、どうしたの?かつて日本政府が認めていた理屈なんだけど、他国に対する個人の損害賠償請求を認めるということは(裁判上で。裁判外では現在も認められている)。徴用工問題についてであるが(「個人の損害賠償請求」については同じ)朝日新聞デジタル「元徴用工の「個人請求権」なぜ残る 弁護士ら声明で指摘」(2018年12月4日13時33分)
、並びにBusiness Journal「徴用工問題、日本政府「個人の賠償請求権は消滅せず」との見解…安倍首相『解決』は間違い」(2018年12月19日20時)
を見よ。
「慰安婦問題は90年代、日本軍が強制連行していたとして批判を浴びた。その後、証言が虚偽だったことが分かり」とあるが、吉田清司証言のみが否定されたにすぎず、「強制連行」すべてが否定されたわけではない。
クマラスワミ報告 - Wikipedia (2021年1月25日現在)によると、「『吉田証言は報告書作成の入手した証拠のひとつ』『吉田証言は報告書の核心でなく、元慰安婦の証言がより重要だ』」、「『吉田証言は証拠の一つに過ぎない』」とある。
「日本は被害者への償い金支給など、この問題に真摯に取り組んできた(略)こうした努力が韓国社会に周知されていないのは遺憾だ。少女像設置などで誤解が広がらぬよう、各国や国際機関にも、日頃から丁寧に説明する必要がある」としても、2015年日韓合意以降に権限ある国連機関から2度合意の見直しを勧告されていることについては既述。
一方、「米国のバイデン大統領はオバマ政権の副大統領当時、日韓合意を高く評価していた」に意味はない。
結局、主要新聞の社説はどれも、日本政府の言い分を正しいとして結論を動かさず、こたつ記事レベルの調査もできていないということである。