清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

慰安婦で 新聞社説 荒れちゃった

 慰安婦問題になると、日本の新聞社説が荒れるという話。

 

 今日取り上げるのは、あいうえお順に。

 

①【主張】韓国の慰安婦判決 事実無根で容認できない.産経新聞,2023-11-25,*1(参照2023-12-02)*2.

www.sankei.com

 

②<社説>元慰安婦訴訟 関係悪化させぬ努力を.東京新聞,2023-11-25.

www.tokyo-np.co.jp

 

③社説:慰安婦判決と日韓関係 対立の再燃招かぬ知恵を.毎日新聞,2023-11-25.

mainichi.jp

 

④社説:元慰安婦訴訟 国際法を無視した不当判決だ.読売新聞,2023-11-25.

www.yomiuri.co.jp

*3

 

 まず、①。最初に取り上げるので、少々詳しく。たまたま50音順で最初というだけで申し訳ないが。

 

 国家は外国の裁判権に服さないとされる国際法上の「主権免除の原則」に基づき、日本政府は訴訟に応じず審理に参加していない。当然のことである。

 …(略)…

 ところが2審ソウル高裁は「違法行為に対しては主権免除を認めない国際的な慣習が存在する」として請求全額を支払うよう日本政府に命じた。

 拉致のような違法行為に主権免除の原則は適用できない、というのだろうが、事実を歪(ゆが)めてはならない。調査や実証的研究で、女性を組織的に連れ去って慰安婦にしたという「強制連行」説は否定されている。

 そもそも日韓のあらゆる請求権問題は1965年の両国国交正常化に伴う請求権・経済協力協定で解決済みだ。

 さらに日韓両国政府は2015年に慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認しているのを忘れてはならない。元慰安婦らの不満があるなら韓国内で解決すべき問題だ。

…(略)…

 韓国が、事実や国際法を無視した司法の暴走を許すなら、責任ある国家とはいえまい。容認すれば韓国への不信が国際社会に広がるばかりである。

 

 まずは主権免除だが、これは微妙である。以前は絶対的なものであったが、現在では「国及びその財産の裁判権免除に関する国際条約」(国連国家免除条約)も、日本の裁判例も、制限免除主義の立場を採用するに至っている*4

 

 次に、「組織的に連れ去っ」たわけではないから不法行為ではない、というわけでもなかろう。"慰安婦にされた女性たち‐韓国".デジタル記念館慰安婦問題とアジア女性基金.

https://awf.or.jp/1/korea.html(参照2023-12-02).によると、「就業詐欺もこの段階から始まっていることは、 知られています。甘言、強圧など、本人の意思に反する方法がとられたケースについても証言があります」とのことだが、これも不法行為ではないということになるのだろうか。

 

 第3に、筆者の研究不足だが、1965年の時点で慰安婦問題が話し合われたのかがよく分からない。

 

 第4に、2015年の日韓合意については、複数回見直し勧告がなされているので*5、社説で肯定的に取り上げること自体が失当である。

 

 第5に、「司法の暴走」がないことは、第1~第4を読めばわかるだろう。

 

 次は②。

 

 元慰安婦の韓国人女性らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、韓国のソウル高裁は原告の訴えを全面的に認めた。国家は他国の裁判権に服さない「主権免除」原則には該当しない事案とし、国際慣習法の原則と距離を置く判決だ。
 

…(略)…

 

 主権免除は「国際慣習法上の原則」として長く絶対視されてきたが、近年は国家の商業的行為や人道問題などには適用されないとの考えも広がっている。その範囲は依然、明確ではないものの、欧州中心に各国の司法判断で適用除外の事例が増えてきた。

 ①に比べたらマシも、動揺していたからか、「国際慣習法の原則と距離を置く判決だ」としてしまった。後述した「主権免除は『国際慣習法上の原則』として長く絶対視されてきたが、近年は国家の商業的行為や人道問題などには適用されないとの考えも広がっている。その範囲は依然、明確ではないものの、欧州中心に各国の司法判断で適用除外の事例が増えてきた」が正しいので、「国際慣習法の原則と距離を置く判決」というのが間違っている。

 

 次に③。

 

 ソウル高裁が、元慰安婦の女性らへの賠償を日本政府に命じる判決を出した。国家には他国の裁判権が及ばないとする国際法上の原則「主権免除」を認めなかった。

 裁判所がある国における「国民に対する不法行為」には、主権免除が認められない場合があるという判断を示した。

 だが、国際司法裁判所(ICJ)が主権免除の例外と認めているのは拷問とジェノサイド(大量虐殺)に限られる。人道に反することが理由だ。ソウル高裁の判断には無理があるのではないか。

 日本政府は訴訟に応じておらず、判決はこのまま確定する見込みだ。ただ政府の在外資産はウィーン条約などで保護されるため、差し押さえるのは難しい。

 2年前の1審判決は主権免除を認めて訴えを却下するとともに、2015年の慰安婦合意に基づく事業が「救済措置」になったと踏み込んだ判断を示していた。

 日本が責任を認めて資金を拠出し、韓国が設立した財団を通じて元慰安婦の名誉と尊厳の回復を図った事業だ。存命だった元慰安婦の7割超が受け入れた。

 国家間の合意は尊重される必要がある。財団は韓国の文在寅(ムンジェイン)前政権によって解散させられたが、日本の拠出した資金は残っている。合意の精神を生かす活用法を両国で考えるべきだ。

 日本の植民地支配に起因する請求権の問題は1965年の国交正常化時に解決済みとされてきた。だが韓国司法がそれに反する判断を相次いで出したことで、両国関係は「国交正常化以降で最悪」と評されるまでに悪化していた。

…(略)…

 慰安婦など歴史に関わる問題は国民感情を刺激しやすい。対立の再燃を避けるための協力が両国の政治指導者に求められる。

 

 いきなり「国際司法裁判所(ICJ)」を持ち出して権威付けようとしたが、①を検討したときと同様、そういうものではない。実際には「ほとんどの場合裁判所は先例を尊重」するそうだが、「いわゆる先例拘束は認められていない」のである*6

 

 2015年日韓合意について「国家間の合意は尊重される必要がある」としか書いていないが、締約した条約を尊重する必要があるので*7、見直しをするしかない状況なのだが、根拠なくスルーしては客観的ではない。

 

 被害者側である韓国側の国民感情は理解するが、加害者側である大日本帝国→日本側が何で「刺激」されるのかもよく分からない。第3者的には、日本側の反省が足りないとしか評価されないだろう。

 

 最後に④。

 

 韓国の裁判所が、日韓関係の土台を揺るがしかねない判決を出した。主権国家は他国の裁判権に服さないという「主権免除」の原則に反する判断である。断じて容認できない。

…(略)… 

 高裁は、慰安婦動員は当時の日本政府による不法行為だとし、主権免除を認めないとした。ウクライナ最高裁が、侵略で自国民に被害を与えたロシアの主権免除を否定し、損害賠償を請求できるとしたケースなどを根拠に挙げた。

 重大な人権侵害には主権免除が適用されないとの説に沿ったのだろうが、列強が覇を競い合った時代の日本の植民地支配と、国際法違反であるロシアの侵略を同列視すること自体、論外だ。

…(略)…

 判決が既成事実化すれば、日本が女性の人権を軽視する国だとの誤った認識が広がりかねない。政府は日本の主張の正当性を対外的に発信することが欠かせない。

 韓国の裁判所は反日感情に迎合する傾向があるとかねて指摘されてきた。元慰安婦や元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)を巡る不当な判決が日韓関係の悪化を招いた例は枚挙にいとまがない。

 「…(略)…」のところは、既に検討したところもあるので、④と本記事を併せて読んでください。

 

 「韓国の裁判所が、日韓関係の土台を揺るがしかねない判決を出した」も何も、日韓関係に配慮するわけないじゃないか。「法官は、憲法および法律に基づいて、その良心に従い、独立して審判する」*8ものだからである。

 

 「列強が覇を競い合った時代の日本の植民地支配と、国際法違反であるロシアの侵略を同列視すること自体、論外だ」というのもよく分からない。①の「次に」以下のパラグラフを読んでほしい。

 

 「判決が既成事実化すれば、日本が女性の人権を軽視する国だとの誤った認識が広がりかねない。政府は日本の主張の正当性を対外的に発信することが欠かせない」のではなく、「日本の主張の正当性(?)を対外的に発信しているから日本が女性の人権を軽視する国だという認識になっている」が正しいだろうね。

 

 「韓国の裁判所は反日感情に迎合する傾向がある」と読売新聞が言えばそうなるわけではない*9。元はといえば大日本帝国慰安婦を作ったのが問題のはずだが。

 

 このように、不正確な知識で、韓国司法を非難し日本を擁護する日本の新聞社説は、何なのだろう。

 

*1:リンクは、以下においても下部に貼ってある。

*2:以下においては省略。

*3:なお、朝日新聞日本経済新聞は、元慰安婦訴訟について、2023年12月2日時点で直接的な社説を発表していないので、取り上げなかった。

*4:筆者は、松井芳郎ほか.国際法.第5版,有斐閣,2007,p.104-106(有斐閣Sシリーズ).を参照した。少々古いが、急に絶対免除主義になったとは聞かないので、制限免除主義であると理解してよい。

*5:清高."国連機関の勧告 何で無視するの?".清高の ニュースの感想 令和版.2020-12-30.

https://kiyotaka-since1974.hatenablog.com/entry/2020/12/30/221107

*6:この一文のカギカッコ内は、松井芳郎ほか.国際法.第5版,有斐閣,2007,p.273(有斐閣Sシリーズ).を参照した。なお、国際司法裁判所規程第59条も参照。

*7:日本国憲法第99条第2項。なお、大韓民国第6共和国憲法第6条第1項。高橋和之編.新版世界憲法集.岩波書店,2007,p.335,(岩波文庫).

*8:大韓民国第6共和国憲法第103条。高橋和之編.新版世界憲法集.岩波書店,2007,p.363,(岩波文庫).

*9:大韓民国第6共和国憲法第103条。高橋和之編.新版世界憲法集.岩波書店,2007,p.363,(岩波文庫).