清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

売れるため 韓国叩く 社説かな

後述する①読売新聞2021年1月9日社説によると、「韓国人元慰安婦12人が、日本政府を相手に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁が原告の訴えを全面的に認め、1人当たり1億ウォン(約950万円)の賠償を命じる判決を言い渡した」という。勝手ながらこの事件についての日本の主要新聞の社説を検討する。韓国について否定的に評価すると売れると踏んでいるのか(もっとも、アメリカで通用すると手の平を返すことがあり、BTSの躍進の秘密を説く記事や書籍も散見される)、以下に取り上げる5紙の社説は、筆者の一瞥の限り、ソウル中央地方裁判所の判決に否定的である。それが果たして正しいかどうかをいかにおいて検討する。

 

順番は、『新聞社に勤めるおじさんが作った新聞の良さを伝えるサイト』「新聞の発行部数ランキング2020年版|新聞のすゝめ」(2020年5月25日。

https://news-paper.jp/%E6%96%B0%E8%81%9E%E3%81%AE%E7%99%BA%E8%A1%8C%E9%83%A8%E6%95%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B02020%E5%B9%B4%E7%89%88%E6%96%B0%E8%81%9E%E3%81%AE%E3%81%99%E3%82%9D%E3%82%81 )に書いてあるランキング順とする。

 

まずは①読売新聞2021年1月9日社説「元慰安婦訴訟 「主権免除」認めぬ不当判決だ」。

www.yomiuri.co.jp

 

①の最初に

 主権国家は他国の裁判権に服さないという国際的に確立した原則に反する判断である。断じて容認できない

とあるが、これには例外がある。以下、国際公法のテキストとして定評がある、松井芳郎ほか共著『国際法(第5版)』(有斐閣Sシリーズ、2007)をも引用しつつ検討する。

 

 この原則(主権免除。筆者補足)が確立した19世紀には、国家の活動はすべて 当然に外国の裁判権から免除されるものと考えられてきたが(これを絶対免除主義という)、20世紀に入り、国家自身がさまざまな経済的活動を行うようになると、そうした活動にまで免除を認めると取引の相手方たる私人を著しく不利な立場にたたせ、取引の安全を害することになると懸念されるようになった。そこで、国家の活動を主権的行為と業務管理的行為とに区分し、前者についてのみ免除を認める制限免除主義(または相対免除主義)の考えが登場し、普及するようになった。2004年に国連総会で採択された「国及びその財産の裁判権免除に関する国際連合条約」(国連国家免除条約)も制限免除主義の立場に立っている。

 -松井芳郎ほか共著『国際法(第5版)』(有斐閣Sシリーズ、2007)p104、105

 

この文章には続きもあり、日本においても平成18年(判決文なので検索の便を図るためにあえて元号表記にする)7月21日の最高裁判所第2小法廷判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/348/033348_hanrei.pdf 

において制限免除主義を採用しているという。

 

さらに続きがあり、引用する。

 なお、最近は、強行規範違反や裁判を受ける権利の保障という観点から免除を制限しようという主張も見られるが、まだ少数の意見にとどまっている。(略)

 

 ところで、制限免除主義の立場にたつ場合は、主権的行為と業務管理的行為とをいかなる基準で区分するかが重要な問題となる。制限免除主義を採用する諸国の国内法や判例は、商取引、雇用契約不法行為に対する損害賠償訴訟、知的所有権に関する紛争などを免除の例外とする点で概ね一致しているが、個々の行為が例えば商取引に該当するかを判断する基準については、当該行為の目的によって区分しようという行為目的説と、行為の客観的性質に着目する行為性質説とが対立している。(中略)この点に関して、国連国家免除条約は、第一に行為の性質により、当事者が合意した場合、または法廷地国の実行においても 行為の目的が関連するとされている場合には、当該目的も考慮されるべきであると規定している(2条2)。

 

 -松井芳郎ほか共著『国際法(第5版)』(有斐閣Sシリーズ、2007)p105、p106

 

慰安婦が「経済的活動」(『国際法(第5版)』p105)なのかという疑問はあるが、「不法行為に対する損害賠償訴訟」(同)であれば主権免除がなされなくても仕方がない。従って①の「断じて容認できない」は疑問である。

 

なお、「問題が尾を引いているのは、韓国の文在寅政権が慰安婦合意を骨抜きにするなど、日韓間の約束を踏みにじる姿勢を続けている」(①)という事実がないことにつき、

 

kiyotaka-since1974.hatenablog.com

 をご一読。それが「日本は、元慰安婦を支援する財団に資金を拠出するなど、問題解決に努めてきた」(①)としてもである。

 

続いては、②朝日新聞2021年1月9日社説「慰安婦判決 合意を礎に解決模索を」。

www.asahi.com

 

 (「司法が踏み込んだ判断」(②)が。筆者補足)いずれも従来の韓国の対外政策の流れを必ずしも反映していない部分があり、日韓の対立要因として積み重なってきた。(②)

 とあるが、独立した司法の判断(大韓民国第六共和国憲法第103条。『【新版】世界憲法集』(岩波文庫、2007)p363)だから当然である。

 

 その意味で日韓両政府が省みるべきは、2015年の「慰安婦合意」とその後の対応だ。(略)

 

 前政権が結んだ合意を文在寅(ムンジェイン)政権が評価せず、骨抜きにしてしまったことが最大の原因だ。(略)

 

 最悪の事態を避けるためにも韓国政府はまず、慰安婦合意を冷静に評価し直し、今回の訴訟の原告でもある元慰安婦らとの対話を進めるべきだ。(②)

 

この部分は①に対する批判と同じである。

 

続いては③毎日新聞2021年1月9日社説「韓国の元慰安婦訴訟 対立深刻化させる判決だ」。

mainichi.jp

 

 国際司法裁判所(ICJ)が反人道的であることを理由に例外と認定してきたのは、拷問とジェノサイド(大量虐殺)である。

 慰安婦制度でも例外を認めるというのなら、新たな判断ということになる。判決が、そのために必要となる慎重な検討を尽くしているのか疑問だ。(③)

 

当ブログでは、長々と『国際法(第5版)』を引用したが、それに比べると何とも軽い検討だ。拷問とジェノサイドが例外なら慰安婦制度を例外とすることに何の問題もないと思うが(どれも重大な人権侵害だから)。ただ、国際司法裁判所の例外認定につき、筆者は未調査。

 

 2015年には最終的な解決を図るための日韓合意が結ばれた。元慰安婦の救済を優先させるために両国が歩み寄った成果だった。国家間の明確な合意を、内政事情で一方的にないがしろにすることは許されない。(③)

 

だから「内政事情」ではない。当ブログ「国連機関の勧告 何で無視するの?」程度の検討をしてから書くべきである。

 

続いては④日本経済新聞2021年1月8日社説「国際慣例に反し理解しがたい慰安婦判決」(有料会員限定)。

www.nikkei.com

 

国際法上の主権免除の原則に反する理解しがたい判決」(④)と軽々しく書くが、その例外を考慮してないので駄目である。

 

有料部分もダメである(ただし、引用形式とはしない)。「国連機関の勧告 何で無視するの?」で日本経済新聞の記事を引用したけど、自社で何を書いたか忘れたのだろうか?徴用工の判決については中国人強制連行に触れていない(和解すればよかっただけの話。

 

kiyotaka-since1974.hatenablog.com

 をご一読)。韓国の司法が独立していることを無視しているのは②と同じ。

 

最後に⑤産経新聞2021年1月9日「【主張】「慰安婦」賠償命令 歴史歪める判決を許すな」。

www.sankei.com

 

「『主権免除』の原則」(⑤)をたいして検討もせずに絶対的なものとしているのが不当だし、

 調査や実証的研究で、女性を組織的に連れ去って慰安婦にしたという「強制連行」説は否定されている。(⑤)

としても、そもそも慰安所を作ったのは旧日本軍なのだから「日本による『計画的、組織的、広範囲に行われた反人道的な犯罪行為』」(⑤)で何も問題ない。まさか、慰安婦が全員自発的に赴いたとでも言いたいのだろうか?

 

kiyotaka-since1974.hatenablog.com

 でも読んで頭を冷やした方がいい。

 

 判決は日本の朝鮮統治を朝鮮半島の「不法占拠」とした。(⑤)

とあるが、韓国の立場はそうである、というだけのことである。

 

 日本政府は韓国側に無法を是正させるための実効的な措置をとらなくてはならない。(⑤)

は勇ましいが、徴用工であれ慰安婦であれ、悪いのは旧日本(企業含む)だろう(徴用工であれば差別と暴力、慰安婦であれば全員が自発的であるということが考えにくいから)。

 

というわけで5紙の社説を検討したが、検討も浅く事実も無視しており、読むだけ有害であった。韓国を叩くと売れるからそのように書いたのだろうか?