まずは2019年11月25日22時27分リリースの読売新聞の記事より。
問題の発端は
そもそも中国人って時点で面接に呼びません。書類で落とします。 https://t.co/b7YD1BfGjt
— 大澤昇平 :: AI 救国論 🇺🇳 (@Ohsaworks) November 20, 2019
である。
他に
今回の炎上問題について、あくまで株式会社Daisyの立場として弁明いたします。
— 大澤昇平 :: AI 救国論 🇺🇳 (@Ohsaworks) November 25, 2019
①私が兼業する株式会社Daisyと東京大学は利益相反マネジメントを行っており、取引先も完全に分けています。
今回の私の「特定国籍の人間は書類で落とす」という投稿は、あくまで私企業が採用方針を表明したものです。
のようなツイートもある。
それらのツイートにおいて、筆者は「労働基準法第3条が」を連呼したが(
https://b.hatena.ne.jp/kiyotaka_since1974/search?q=%40Ohsaworks 参照)、間違いですので、翌日以降直していきたいと思います。申し訳ありませんでした。
というのは、労働基準法第3条は、「雇入れ後における労働条件についての制限であり、雇入れそのものを制限する規定ではない」(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決。「三菱樹脂事件」。「三菱樹脂事件」については『有斐閣判例六法』(有斐閣)平成31年版より引用)と言われる)からである。
言い訳してはいけないがあえて言い訳すると、筆者は日立製作所事件(横浜地方裁判所昭和49年6月19日判決)が頭にあり、在日朝鮮人が「氏名、本籍欄に虚偽記入」(菅野和夫『労働法』(第7版補正版。弘文堂法律学講座双書、2006.以下『労働法』と表記。なお、最新版での確認を乞う。なお、菅野和夫先生の『労働法』は労働法のスタンダードテキストであるから、労働法に興味のある方は買っておいて損はない)p130)したが採用内定され、その後「入寮手続の際に在日朝鮮人であることを告げるや内定を取り消された事件」(『労働法』p130)において労働基準法第3条違反を認めた判決が頭にあり、それと勘違いしたのである。
となると、中国人ゆえ採用しないことは許されるのか?
再び菅野和夫『労働法』の出番(引用)とすると、「契約の自由も、採用の自由も、あくまで公共の福祉、労働者保護、人権などの原理に基づく法律による制限に反しない限りでのもの」(『労働法』p116)という。
また、ILO駐日事務所「差別と平等 Q&A」
https://www.ilo.org/tokyo/helpdesk/questions-answers/WCMS_644782/lang--ja/index.htm
によると、「国民的出身による差別」に該当すれば1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約違反になる。しかし、この条約を日本は批准していないので、実は日本においては中国人ゆえ採用しないというのは許される可能性が高いと思われる。
なお、前後するが、菅野和夫『労働法』に「人権などの原理に基づく法律による制限」(p116)とあるが、憲法の人権規定は原則として私人間(本エントリーの場合は使用者と求職者間)に直接適用されないので(通説)、それが民法の一般条項(第1条や第90条)違反でない限りは中国人ゆえ採用しないというのが許させる可能性が高い。
さらに、前述の三菱樹脂事件によると、「使用者は、憲法22(『有斐閣判例六法』の原文は漢字も、筆者がアラビア数字に改めた)条、29条等で保障された財産権、営業その他広く経済活動の自由の一環として契約締結の自由を有し、自己の営業のための労働者の採用について、法律その他による特別の制限がない限りいかなる者をいかなる条件で採用するかを原則として自由に決定することができる」ので、この裁判例からも中国人ゆえ採用しないというのが許される可能性が高いと思われる。
筆者の感情としては承服しがたい結論であるが、乏しい筆者の法律知識の駆使の限りでは、現時点では上記のような結論となる。もっとも、だから大澤昇平さんのツイートを非難するな、という趣旨ではない。