朝、紙の読売新聞統合版(2021年4月19日付)12版8面「気流」(投書欄)を見ると、「中韓反発 容認できず」という見出しを見た。
まず「反発」という見出しがダメだ。最近は上西充子さんの話が有名だが*1、烏賀陽弘道『フェイクニュースの見分け方』(新潮新書、2017)p89,90でも「『記事の勝手な価値判断が混じった言葉』」として「『反発する』」という言葉は「(著者の烏賀陽さんが。筆者補足)『使ってはいけない』と命じられた」とある。中国(本エントリーの国名は略称を用いる。以下省略)や韓国の主張の詳細が大事なのであって、新聞社の価値判断は二の次である。
それでは中国と韓国はどのような声明を出したのか。本当は中国や韓国の新聞を取り上げないといけないだろうが、日本の新聞でも間に合うと判断したので日本の新聞・テレビの記事を引用する。まず中国。
中国外務省は13日、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出方針を日本が決めたことについて「国内外の疑問や反対を顧みず、周辺国と十分に協議をせずに一方的に決めた。極めて無責任なやり方だ」と批判する報道官談話を発表した。*2
次は韓国。
韓国政府は、会議で「国際基準に合わず、周辺国の理解と同意がない決定」だと主張し、「断固反対する」と表明しました。*3
その後(2021年4月19日19時7分配信)。
日本政府が、東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなどを含む処理水を、国の基準を下回る濃度に薄めて海へ放出する方針を決めたことをめぐり、韓国政府は反発してきましたが、19日、チョン・ウィヨン(鄭義溶)外相は「IAEA=国際原子力機関の基準に適合する手続きに従うなら、あえて反対するものではない」と述べ、一定の理解を示しました。
(中略)
19日、チョン・ウィヨン外相は、国会で、日本政府に対して科学的な根拠を共有することや、十分な事前協議、さらにIAEAが行う検証に韓国の専門家などが参加するという3点を求めていると説明しました。
そのうえで、チョン外相は「IAEAの基準に適合する手続きに従うなら、あえて反対するものではない」と述べ、日本の決定に一定の理解を示しました。*4
ともに周辺国との協議や同意がないことなどを非難しており、一見妥当なもので、「反発」という見出しで世論操作をしようとする読売新聞その他マスメディアが問題である。
だいぶ横道にそれたので「中韓反発 容認できず」の投書の話に戻す。筆者が投書を取り上げようとしたのは、以下に引用する部分が理由である。
それにしても、我慢ならないのは中国や韓国の反発だ。東電の計画では、処理水に含まれる放射性物質トリチウム放出の上限は年間22兆ベクレル[原文は小さい文字]だ。一方、中韓の原発では過去に年間で40兆ベクレル[原文は小さい文字]以上のトリチウムを放出している。自分の行為を棚に上げた批判で、断じて容認できない。*5
「我慢ならない」って、事故が起きたの、日本だぞ。中国や韓国の宗主国なのか、今の日本って?中国や韓国は日本に従えということか?実際は、協議や同意がないことを問題視しているので、ズレている。
どうも読売新聞は、中国や韓国に対する憎悪を掻き立てると読者が喜ぶと思っているのか、そのような見出し、投書を採用している。しかし、日本語メディアレベルでも報道を確認すれば、「中韓反発 容認できず」という見出しは成立せず、内容もダメなことくらいわかるだろうに。
*ウェブサイトはすべて2021年4月19日アクセス。