筆者は紙で読売新聞を読むが、2021年10月28日統合版12版12面「気流」(以下、①と表記)に「世襲議員の多さ 目に余る」という投書があった。なお、新聞の著作権は新聞社が持っていると推定し、投稿者の名前は伏せる。以下、引用する。
中選挙区制時代は同じ政党から複数の候補が立候補していたため、世襲議員を選ばなくても、自分の支持する政党の候補者に投票できた。だが、小選挙区制ではそうした自由はない(略)
発表日時が前後するが、類似の問題意識を『論座』という、朝日新聞が運営しているサイトで見ていた。山下一仁・キャノングローバル戦略研究所研究主幹「衆院選は、小選挙区制のままでよいのか?
世襲の優先、政策通議員の減少…数多い課題を考える」(2021年10月23日。以下②と表記)
をも以下で引用する。
(前略)金権政治が問題視され、なかでも当時の選挙制度が政治に金がかかりすぎることの大きな原因だとされた(略)
環境庁長官・防衛庁長官を務めた愛知和男氏は、中選挙区制が抱えていた「政治とカネ」をめぐる問題を認め、小選挙区制になってからそれがかなり改善したと評価した上で(略)/愛知氏は、小選挙区制は「日本の社会になじまない」として、「戻せるなら(中選挙区制に)戻した方がいい」とまで語っている(略)
金権政治打破という目的は、一応達成された。派閥の長や個人政治家に巨額の金が流れるという、かつてのロッキード事件やリクルート事件のような事件は起こっていない。愛知和男氏の言う通り、これは政治改革の成果である。しかし、それは小選挙区制への移行だけではなく、政党交付金による効果も大きかったように思われる。
もちろん、選挙や政治に金がかからなくなったわけではない。最近でも、河井夫妻による参院広島選挙区の買収事件と自民党からの1億5000万円の提供(略)が起こっている(略)
少数の利益集団ではなく多数の意見を聞く政治が実現できるとするメリットは、どうなったのだろうか?
結論から言うと、改善されなかった。それは選挙の争点が多数存在するからである(略)
小選挙区制では、さらに問題がある。制度上小選挙区制の下では一位なら30%の得票でも当選するので、残りの多数の票は無視される。多数の死票が出ることは、制度導入以前から指摘されたことである(以下略)(②)
読売新聞に投稿した人、ならびに山下さんには、政治学の文献を読んで考えを改めろ!と言いたい*1。以下、検討する。
①に「中選挙区制時代は同じ政党から複数の候補が立候補していたため、世襲議員を選ばなくても、自分の支持する政党の候補者に投票できた。だが、小選挙区制ではそうした自由はない」とあるが、それならば自分で政党活動に参加してはいかがか。受け身でいる投稿者が悪い、としか言えない。なお、「政治学の文献を」と啖呵を切った筆者、例えば小選挙区制を採用している民主主義国である、アメリカ合衆国、イギリス(略称)、フランス共和国で世襲議員が跋扈しているかはわからない。仮に世襲議員が跋扈していても政党の考え方は違わないはずであるから何ら問題ない。文句があるなら自ら政党を結成し支持者を広げるべきだろう。
②から「金権政治が問題視され、なかでも当時の選挙制度が政治に金がかかりすぎることの大きな原因だとされた」だとか「環境庁長官・防衛庁長官を務めた愛知和男氏は、中選挙区制が抱えていた『政治とカネ』をめぐる問題を認め、小選挙区制になってからそれがかなり改善したと評価した上で」だとかを引用したが、この部分は的確。しかし、「金権政治打破という目的は、一応達成された。(略)しかし、それは小選挙区制への移行だけではなく、政党交付金による効果も大きかったように思われる」は小選挙区に対する過小評価である。現実は「もちろん、選挙や政治に金がかからなくなったわけではない。最近でも、河井夫妻による参院広島選挙区の買収事件と自民党からの1億5000万円の提供(略)が起こっている」ということである。「参院広島選挙区」は、広島県を単位とした中選挙区制であった*2。最近の選挙違反の事例が参院広島選挙区のみかは確認していないが、中選挙区ゆえに起こってしまったと認定できなくもないだろう。
「少数の利益集団ではなく多数の意見を聞く政治が実現できるとするメリットは、どうなったのだろうか?/結論から言うと、改善されなかった」だとか「小選挙区制では、さらに問題がある。制度上小選挙区制の下では一位なら30%の得票でも当選するので、残りの多数の票は無視される」だとかもあるが、これもおかしい。学問的には中選挙区の方が「少数の利益集団」(②)を聞くのみで当選できる可能性が高い一方で、多数代表制の小選挙区では「多数の意見を聞く政治」(②)になるはずだが、仮にそうなっていないならば、フランス共和国みたいに2回投票制*3にすればいいだけである。内閣総理大臣の指名も出席議員の過半数の得票(賛成)がない場合は決選投票となるわけなので(憲法第67条、第56条第2項)、政権選択選挙とされる衆議院議員選挙にふさわしい。
中選挙区の致命的欠点、それは、少数派でも入ってしまう可能性が高いということである。それもあってか、世界の選挙制度は、概ね小選挙区制か比例代表制を採用しているというのが筆者の印象である。中選挙区に賛成する人は、もっと世界の選挙制度を調べて、(なぜ中選挙区制は採用されないのだろう?採用されないのには何か理由・欠点があるのでは?)と考えた方がいい。