清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

批判と中傷 区別ができぬ 読売が

 安倍晋三・元内閣総理大臣が銃殺された件で、読売新聞が「首相退任後も中傷続く 批判先鋭化・演説を妨害」(2022年7月9日朝刊13版4面)という記事を出しているが、冷静さを欠いている。以下、引用しつつ、検討する。

 

 まず、言葉の定義。以下においては、コトバンクの、「精選版 日本国語大辞典」の解説による。

 

 批判とは、「① 批評して判断すること。物事を判定・評価すること。(略)
③ 良し悪し、可否について論ずること。あげつらうこと。現在では、ふつう、否定的な意味で用いられる。」とする。

批判とは - コトバンク

 

 中傷とは、「ありもしないことをわざと言いたてて、他人の名誉を傷つけること」とする。

中傷とは - コトバンク

 

 誹謗とは、「他を悪くいうこと。そしること」である。

誹謗とは - コトバンク

 

 それでは検討する。

 

 安倍氏の小学生時代に家庭教師を務めた自民党平沢勝栄衆院議員は8日、「『安倍氏になら何を言ってもいい』という空気がエスカレートしていったことも考えられる。今回の事件がそれに起因しているとは思わないが、そういった風潮は反省すべきだ」と記者団に語った。

 

 もしこの理屈が通じるならば、「鳩山・菅という最悪の宰相を生み出した民主党*1、という類も言えなくなるけど。現在までアベノミクスが継続しているとされれば、言われても仕方ないだろう。

 

 (2015)年8月には、野党共闘を主導した大学教授が「暴力をするわけにはいかないが、安倍に言いたい。お前は人間じゃない。たたき斬ってやる」と言い放った。

 

 筆者はこの発言を支持するわけではないが、読売新聞が問題にしている「中傷」ではなく、せいぜい「誹謗」である。私見だが、この程度であればおそらく処罰されないだろう。むしろ、強い言い方をすることによって怒りを表現することを尊重すべきである*2

 

 リベラル派を自認する集団が選挙演説を妨害するような活動も増え(中略)/(20)17年7月、東京都議選の応援で安倍氏が演説中、一部の聴衆が横断幕を手に「安倍辞めろ」などと叫んだ。安倍氏はその場で「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と応酬。野党は「国民の声を聞かないのか」と批判を浴びせた。

 

 場合によっては、公職選挙法第230条第1項の「多衆の選挙妨害罪」に該当するが、単に横断幕を手に叫んだくらいで「暴行もしくは威力」*3に該当しない可能性が高いので、野党の批判が正当とされよう*4

 

 (20)19年参院選では、札幌市内で演説中の安倍氏に、男女2人が「安倍辞めろ」とヤジを飛ばし、警官が制止した。2人は「政治的表現の自由を奪われた」として北海道に損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こし、(20)22年3月に勝訴した。

 

 実際の模様は、北海道放送『ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~』(2020年4月26日)あたりでも見て読者が判断してほしいので、リンクを貼る。

 

www.youtube.com

筆者の印象では、この程度では、公職選挙法違反に該当しないと思う。ただし、まだ最高裁があるので何とも言えないが。*5

 

 ツイッターなどのSNS上では、安倍氏に批判的な人によるものとみられる「うそつきは安倍の始まり」「安倍死ね」などの書き込みが行われている。

 

 引用しなかったところを含め、あえて「中傷」と言えそうなのは、「うそつきは安倍の始まり」くらいか。しかし、これは中傷ではない。それは、「安倍晋三前首相による『桜を見る会』前夜祭に関する疑惑を巡り、衆院調査局は21日、安倍氏が2019年11月~20年3月に事実と異なる国会答弁を118回していた」*6という事実があるからである。

 

 以上検討したが、本エントリーで引用した読売新聞の記事からは「中傷」が一切見つからなかった。「演説を妨害」も、この程度では問題ないと思われ、むしろ読売新聞が中傷したと認定するのが妥当である。日本の発行部数ナンバーワンの新聞が、日本語も知らないということがわかって、複雑な心境である。

 

 最後に、中傷の一例を。それは、東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こした時に、当時の菅直人内閣総理大臣が海水の注入を止めさせたとされたことである。実際はそうではないことにつき、『朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない: 隠された原発情報との闘い』(海渡雄一/河合弘之など、彩流社、2015)をご一読*7

 

*1:『転職のまえに(略)』(中沢孝夫ちくま新書、2018)p.183。

*2:だからか、アメリカではヘイトスピーチは罰しないらしい。『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』(エリック・ブライシュ、明石書店、2014)をご一読。ただし筆者はヘイトスピーチを処罰しないことに賛成しない。

*3:参考までに、最高裁昭和28年1月30日判決によると、「本条にいう『威力』とは犯人の威勢、人数、四囲の情勢から客観的に見て被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側のをいい(略)被害者の主観的条件によっては左右されない」。

*4:はっきり断言できないのは、筆者がその場にいなかったからである。ただ、この件で叫んだ人が「多衆の選挙妨害罪」が成立して有罪になったという話は聞いたことがない。

*5:日本の最高裁判所の裁判官が保守的(自由民主党が支持する方向)であると推測できることにつき、当ブログ「文句あるなら 野党に入れるの 一案だ」をご一読。

https://kiyotaka-since1974.hatenablog.com/entry/2022/06/17/223406

*6:毎日新聞「安倍前首相の「虚偽答弁」118回 衆院調査局 桜を見る会前夜祭」(2020年12月21日19時31分(最終更新同日22時50分)。有料記事)

https://mainichi.jp/articles/20201221/k00/00m/010/234000c

東京新聞「安倍前首相の『虚偽答弁』は118回 桜を見る会前夜祭巡り衆参両院で 立民が衆院調査局に調査依頼し判明」(2020年12月21日20時14分)https://www.tokyo-np.co.jp/article/75781

*7:ただ、菅直人・元内閣総理大臣が、安倍晋三を訴えるほどのことだったのかはよくわからない。