清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

読売の 戦争しよう キャンペーン

1. 読売新聞は、2023年2月5日統合版(朝刊の場合あり)において、戦争を煽っているという話。

 

2. まず1面と2面、「[地球を読む]反撃力保有 空想的平和主義の終幕…北岡伸一 東大名誉教授」*1である。

 

 見出しがすごいね、まず。「空想的平和主義の終幕」。エンゲルスか! 左翼か! コトバンク空想的社会主義」をご一読あれ。

kotobank.jp

 

 防衛費GDP比1%を維持しつつ米国から高価な武器を購入し続けた結果、自衛隊は弾薬やミサイルの備蓄が少なく、施設が老朽化した、持続性の乏しい歪な形になっている*2

とあるが、それは防衛費の問題ではなく、まさに単独講和が原因で、「全面講和は不可能だった」*3という話ではない。例えば、国内での戦闘機開発が、アメリカに潰された、といった話なのである。すなわち、アメリカべったりだから付け込まれただけの話である*4

 

 万一攻撃されたら反撃して第2撃を阻止するとともに、全体として他国に日本攻撃を思いとどまらせる能力を持つ必要がある*5

は別に、日米安全保障条約と何ら関係ないが、自衛権には必要性、緊急性、均衡性の3要件があって、その限りの話でしかないから、北岡が思うほどのことはおそらくできないだろう。

 

 ウクライナ戦争は多くのことを変えた。まず、世界の同情と支持を得るのは自ら必死で戦わねばならないということだ*6

というのもよく分からない。現在において戦争は原則違法なのだから、北岡が以前大使をやっていた、国際連合の案件になるというだけの話である。

 

 以上のような非武装論の終わりは野党の終わりを意味しない。野党が非武装論から決別し、常識的な安全保障を採用すれば、自民党と対等の立場に立てる*7

とあるが、記事のどこに野党の非武装論があるか、「常識的な安全保障」があるか、わからなかった。前者はおそらく、「日本の軍事大国化を批判する野党やメディアの要求に応じたもの」*8と北岡が認定する、

(以下箇条書き)

自衛隊は海外に派遣しない

②日本は専守防衛政策をとり、攻撃はアメリカに委ねる

③防衛予算はGDP比1%とする

④武器輸出三原則*9

⑤軍事研究の抑制、など*10

のことだが、①は民主党政権でも海外派遣しているし*11、その他も特に問題とは思わなかった(私見)。③について付言すると、防衛費もお金がかかるわけで、可能な限り少ないほうがいいに決まっており、岸田文雄がやったような、ジョー・バイデンアメリカ大統領との共同記者会見において勝手に防衛費を増額することを約束していいわけではない*12

 

 北岡は、自らの気に入らない見解を「空想的」と認定する、左翼的な人間であるが、北岡が「空想的」とする見解は、筆者の見る限り、それほどおかしなものとは思わず、北岡自身の見解に問題がありそうである。

 

3. 最後に、読売新聞2023年2月5日統合版(朝刊の場合あり)12版6面に載った、「[あすへの考]【戦後日本の課題】「祖国」を守る想像力 必要…帝京大教授 井上義和氏」*13について、以下において引用しつつ検討する。

 

 専守防衛とは、相手から攻撃を受けたときに初めて、必要最小限度の防衛力を行使する受動的な戦略です。(略)日本は専守防衛を国是とし、国民も支持してきました。一定程度持ちこたえれば、同盟国や国際社会が助けてくれるという発想です。

 

 それは自分から仕掛けなければ相手から攻撃されることはないという信念の裏返しでもあります。戦後の日本では、外国の侵略からどう国を守るかという真剣な問いかけは忌避されてきたのが実情です*14

とあるが、別に日本に限らず、それが第2次世界大戦後の国際法である*15

 

 国内を戦場とせずに、戦争の早期終結を目指すのであれば、敵のミサイル発射拠点を自衛目的で破壊する「反撃能力」の保有は有効な戦略の一つです。(略)しかし、「戦争をできる国にするのか」という極端な意見が一定の力を持ち、冷静な議論ができません*16

という井上の方が冷静ではないことは、知識があれば誰にでもわかることである。日本政府が言うように、外国の領域に攻撃を加えることができるとしても、その場合は、おそらく井上や、読者が想像するより狭いはずである。というのは、自衛権は、「『もっとも重大な諸形態』」の武力行使に対してしか行使できない、「相手の攻撃を見越して先に攻撃する先制自衛や予防的自衛は許されない」*17などの制限があるからである。引用*18を検討すると、「国内を戦場とせず」という状況も、「敵のミサイル発射拠点を自衛目的で破壊する」場面もほぼない。

 

 日本には6800を超える島があり、9割以上が無人島です。例えば、住民のいない偏狭の島に他国の軍隊や武装勢力がやってきたら、どう対処するのか*19

とあるが、何のために? と問わざるを得ない。楽観しているのではない。そういうことは国際連合憲章第2条第4項で禁止されているし、その他国際連合憲章通りに対処するとしか言えない。そしてそれはどの国際連合加盟国も同じである。

 

4.昨年からのロシア共和国のウクライナ共和国領土への武力行使について、国際連合加盟国の対処が鈍いように思うのは良いが、だからと言って、国際連合国際法を無視し、自衛権の範囲を超えかねない過度な武力行使を煽るかのような文章を2本載せた読売新聞の見識は、国際社会では通用しないであろう。

*1:「読者会員」「読者会員(家族)」限定で公開。https://www.yomiuri.co.jp/serial/earth/20230205-OYT8T50000/ 

*2:読売新聞2023年2月5日統合版(朝刊の場合あり)「[地球を読む]反撃力保有 空想的平和主義の終幕…北岡伸一 東大名誉教授」2面より引用。

*3:同前。

*4:この辺りは、春名幹夫『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(KADOKAWA、2020)に詳しい。

*5:「[地球を読む]反撃力保有 空想的平和主義の終幕…北岡伸一 東大名誉教授」2面。

*6:同前。

*7:同前。

*8:同前。

*9:コトバンク「武器輸出三原則」(

https://kotobank.jp/word/%E6%AD%A6%E5%99%A8%E8%BC%B8%E5%87%BA%E4%B8%89%E5%8E%9F%E5%89%87-169382

)を参照。おそらく、「 (3)国際紛争の当事国またはそのおそれのある国には武器輸出を認めないとする政策」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「武器輸出三原則」の解説)の見直しのことと思われる。

*10:「[地球を読む]反撃力保有 空想的平和主義の終幕…北岡伸一 東大名誉教授」2面。

*11:J-STAGE「年報政治学 民主党政権による国際平和協力の再評価」(本多倫彬。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku/71/1/71_1_178/_article/-char/ja/ )の「抄録」のみ参照。

*12:朝日新聞デジタル「『防衛費の相当な増額』首相が表明 バイデン氏から『強い支持』(2022年5月23日15時3分。

https://www.asahi.com/articles/ASQ5R4VV1Q5RUTFK011.html

)を参照。

*13:タイトルにある年齢を省略した。

*14:読売新聞2023年2月5日統合版(朝刊の場合あり)「[あすへの考]【戦後日本の課題】「祖国」を守る想像力 必要…帝京大教授 井上義和氏」。

*15:根拠は国際連合憲章第2条第4項。なお、松井芳郎ら『国際法〔第5版〕』(有斐閣Sシリーズ、2007)pp.284-290をご一読あれ。井上の話より筆者の批判が妥当なのがわかるから。

*16:「[あすへの考]【戦後日本の課題】「祖国」を守る想像力 必要…帝京大教授 井上義和氏」

*17:国際法[第5版]』pp.292-293。なお、均衡性の原則については、同書p.294)

*18:以下の2つのカギカッコは、「[あすへの考]【戦後日本の課題】「祖国」を守る想像力 必要…帝京大教授 井上義和氏」からの引用。

*19:「[あすへの考]【戦後日本の課題】「祖国」を守る想像力 必要…帝京大教授 井上義和氏」