清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

名著だよ 『〈癒し〉のナショナ リズム』はね

最近、『〈癒し〉のナショナリズム 草の根保守運動の実証研究』(小熊英二/上野陽子、慶応義塾大学出版会)という本を読んだ。2003年初版だが、現在にも通用する本だったので、引用しつつ紹介する。
 
いきなり第3章。この本の核心部分なので。まずはp88「よく出てくる言葉」から検討。「講師も参加者もよく使うキーワード」には「肯定的に使われるものと、そうでないものにはっきりと分かれ」ているとか。
 
(以下は、p89,90から引用。引用開始)
肯定的
・良識的 ・普通の感覚 ・健全なナショナリズム ・庶民 ・日本人の誇り ・伝統 ・産経 ・石原慎太郎
 
否定的
・左翼 ・サヨク ・市民運動家(カッコ内略) ・人権主義 ・朝日(カッコ内略(というか、余計)) ・マスコミ ・官僚(カッコ内略) ・一部の政治家 ・社民党 ・共産党 ・中国 ・韓国 ・北朝鮮
(引用終了)
 
なんか、今のネット右翼ネトウヨ)と言われている人とそっくりに思いませんか? それだけではなく「市民運動家」は「否定的」な言葉なんだって。何となく、菅直人(本では「管直人」(例えば、p192)となっていた。人の名前を間違えるのは問題だろう)・前内閣総理大臣が辞任させられた理由がわかる(政治の問題ではなく、好き嫌いの問題)。
 
ただ、これらのキーワード、共著者によると、分かって使っているものではないらしい。
 
小熊によると、「彼らから『サヨク』と位置づけられるであろう市民運動家などの多くは、むしろ『献身的』と言ってよい人々であり、『自己中心的』などとは程遠い存在」(p194)なんだって(「自己中心的」(p156)というイメージを「左翼」「サヨク」に持っている人がいる。また、「『道徳は他人のために自己犠牲する精神、人権っていうのは自分のためだったら他人にどんなことをしてもいいっていうイメージがあります』」(p105)という意見も載っている)。私は会ったことがないのでわからないが、えてしてそういう人たちにはネガティブなイメージを持ちがちなもの。注意せねば。
 
それはさておき、上野が調査した「『新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体史の会』」(p76)の人たちは、「左翼の得意とする(と内部で思われている)市民運動を否定する」(p96)が、「彼ら」の実際に行なった運動は「講演会・シンポジウムへの出席、マスコミなどへの抗議文提出、自主的な勉強会開催など」(p96)である。悪くはないが、市民に直接訴えるものがないという意味でインパクトは弱いか(きつく書くと、「今の世の中を本当の意味で変えていく力にはなれない」(p147)となるか。しかし「本当の意味」って? それはさておき、もちろん、「市民運動推進派」(p111)もいるが、上野の調査では少数らしい)。
 
「『新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体史の会』」の構成員は、普通ではないらしい。p153の「購読紙(新聞)」を見てみると、「一位……産経のみ(中略)二位……読売と産経(中略)三位……日経のみ(中略)四位……産経と日経(カッコ内略)、読売のみ(カッコ内略)、読んでいない(中略)五位以下……朝日のみ(カッコ内略)、朝日と産経(カッコ内略)、空欄(以下略)」である。ちょっと調べればわかるが、読売が第1位、朝日が第2位、毎日が第3位、日経が第4位、産経が第5位という序列は現在でも変わらない(不破雷蔵『Garbagenews.com』「読売1000万部維持、毎日は前期比マイナス2.36%…新聞の発行部数などをグラフ化してみる(2010年後期分データ更新・半期分版)」(2011年3月4日。http://www.garbagenews.net/archives/1698040.html) )参照)。しかし、「二〇〇一年六月に出された市販本が異例の売れ行きを示した」(p143)ことからすると、普通ではないとも言えない。読めば、「『新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体史の会』」に共感する人は、あろう。
 
読んでいて少々極論だと思ったが、「『新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体史の会』」流の「普通」は、「べ兵連の旗揚げ役を担った小田実」(p218)流の「普通」とは違い、「排除」(p218)につながるのだという。p105「―『つくる会』の“新しい歴史教科書”と在日コリアンについてどう考えますか。/(改行。清高注)『在日朝鮮人の方がこの教科書を使ったら?……まあ、ありえないでしょうけど』」という「『あり得ない』」(在日コリアンでも日本の公立学校に通っている人もいる)想定(というか、単なる「無知」(p195)だと思う)について、「彼らが差別の自覚もないまま推進する運動が、〈眼中に入っていない〉少数者に対してどれほど抑圧的なものであるのか」(p195)と、小熊は批判する。極論という私見を変えるつもりはないが、ネット右翼的なコメントに接することのあるユーザーとしては、何となくわかる話である。
 
もっとも、いわゆる『新しい歴史教科書をつくる会』系の教科書は、読んだことはあるのだが、たいがいは忘れた。というわけで、第一章、第二章が妥当かどうかを判断する能力を、私は持たない。しかし、現在の日本の状況を理解する一助に、いまだになっているのだから、『〈癒し〉のナショナリズム 草の根保守運動の実証研究』は、調査対象が狭すぎる(神奈川だけか?)などの批判があっても、名著なのである。
 
とまぁ、さわりにも要約にもなっていないだろうが、機会があったら、『〈癒し〉のナショナリズム 草の根保守運動の実証研究』、ぜひご一読を。
 
*文中敬称略