清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

諫早で 菅悪いとは 言えないか

2014年3月5日(仙台では)に放送された、テレビ朝日系のドキュメンタリー「テレメンタリー2014 守られなかった確定判決 ~諫早湾干拓、開かない排水門」(長崎文化放送・制作。以下、「番組」と表記)を、先日見終えた。

 
私は九州人じゃないので遠い出来事だが、ネットでは(おそらくリアルより)優勢な民主党叩きのネタの一つがこの諫早湾干拓問題で、菅直人・元内閣総理大臣が上告しなかった対応を非難する声が多いように感じた。それで興味を持ち、実際どんなものかを知りたくて、見た。
 
そもそも論として、諫早湾は、600年前から断続的に干拓がされてきたが、その都度生態系が守られたという。
 
ところが、1989年から着手した国営の諫早湾干拓事業の後では、そんな生態系が守られるということはなかった。
 
2007年に諫早湾干拓のために水門を閉鎖したが、その後に、ノリ、あさり、漁業に深刻な悪影響が生じる一方で、広大な農地は完成。
 
番組では、まず、開門賛成派の見解を紹介。国は認めていないが、熊本保健科学大学高橋徹教授は、水門閉鎖による水質悪化と不漁に因果関係があるとする。
 
2010年12月6日、福岡高等裁判所において、漁業者が求めた3年以内の開門を命じる判決を出し、国は上告しなかった。その当時の首相・菅直人のインタビューは少々物足りないのは後述するとして、菅は上告しなかったことにつき、①諫早湾干拓事業の是非を問うた判決ではない、②開門調査は当然のことだということで上告しなかった、③開門して調査をしてほしいという主張は妥当だと思った、とコメントした。
 
後半では、1億円以上投資して移住した人に対してインタビューするなど、開門反対派の主張を紹介。移住者は、試行錯誤の上、キャベツの栽培に活路を見出したが、そんな努力も、開門によって、海水の侵入が予想され、塩害の心配がある。
 
2013年9月には、福岡高等裁判所の確定裁判に基づいて農林水産省が動き出すが、開門反対派の厳しい「帰れ!」コールが鳴り響いた。脇にそれるが、脱原発デモを非難する人って、開門反対派の「帰れ!」コールも非難するんですよね(行政に楯突いているのは同じだから)?しかし、主張の妥当性はさておき、皆真剣なのだ。理由もなく市民運動に反対するのは慎んだほうがいいと思う。
 
2013年11月、長崎地方裁判所は、農業者が求めた、開門を差し止める仮処分決定を出す(番組によると「すべてのケースにおいて」)。そして、福岡高等裁判所の確定判決の期限とされた、2013年12月20日、水門は開かれなかった。
 
農林水産省は、2013年11月の長崎地方裁判所の決定を立てにして開門をしないが、私見ではこの農林水産省の対応は何の正当性もない。確定判決を守らないことを正当化出来る根拠がないからである(学問的には難しいらしいが、先に確定判決を得た方を優先することに不都合がない一方、再審でもないのに確定判決を履行しなくていい根拠がわからない)。
 
番組では、菅直人が再び登場。いわく、「農水省干拓事業に強い執念」を持っていたそうで、内閣総理大臣当時、「農水省に対して」(以下は要約)上告する、しないの案を2つ出してくれと頼んだが、する案しか出さなかったという。しかし、番組のツッコミが足りない。農林水産省が上告するという案しか出さないのであれば、憲法解釈や憲法違反など(以上、民事訴訟法第312条)、最高裁判例違反や「法令の解釈に関する重要な事項を含むもの」がある(以上、民事訴訟法第318条第1項)、といった事情があるはずだが、それがわからなかったので上告しなかったのが妥当かが判断できない。ただ、そんな事情があっても上告することが義務というわけでもないので、菅を非難するのは難しい。心情論としては、菅の言い分を私は支持せず、上告すべきだったと思う。ただ、菅は一連の経過(閉門したから漁業関係者が被害を受けた)を重視し、私は現状(どちらの判断でもどちらかの住民に厳しくなるので最高裁の判断を仰いだほうがよい)を重視しているということなのだろう。
 
なお、開門賛成派、反対派、ともに国に制裁金を申し立て、国は決断を先延ばしにして、双方に異議を唱えているという。
 
制作は長崎文化放送。その割には、開門反対派の肩を一方的に持たず、双方の対立、国の対応を、約24分の番組でうまく盛り込んだが、菅へのインタビューが少々ツッコミ不足だったのがイマイチだと思った。
 
*文中敬称略