カルロス・ゴーンさんが、保釈の条件である、出国しないということを無視してレバノンに行ったことにつき、主要新聞の社説を比較する(2020年1月5日時点では、朝日新聞と日本経済新聞は社説にしていない)。
【主張】ゴーン被告逃亡 保釈を認めたのが誤りだ - 産経ニュース
東京新聞:ゴーン被告の逃亡 司法への挑発と忠告:社説・コラム(TOKYO Web)
社説:ゴーン被告の国外逃亡 司法の基盤揺らぐ事態だ - 毎日新聞
ゴーン被告逃亡 逃げ得を許してはならない : 社説 : 読売新聞オンライン
50音順で取り上げ、かつ検討する。まずは産経新聞2020年1月3日社説「主張】ゴーン被告逃亡 保釈を認めたのが誤りだ」。
(2段落略)
東京地裁はゴーン被告の保釈を取り消した。保釈金15億円が没取されるのは当然としても、保釈を認めた地裁の判断が適切だったのか厳しく問われよう。弁護側の責任も重い。保釈が認められるのは、逃亡や証拠隠滅の恐れが高くない場合に限られる。そのどちらも懸念されていたことである。
弁護側は保釈後の国内住居に監視カメラを設置するなどの条件を提示して保釈決定に結びつけた。海外渡航禁止の条件で保釈されており、パスポートは弁護団があずかっていたという。だが結局、海外逃亡まで許した。悪意を持って企てれば、保釈にどんな条件や手立てを講じても無になる。それが分かっても遅きに失した。
(略)
ゴーン被告をめぐっては長期勾留に海外のメディアから批判が強かった。外圧に屈しての保釈判断もあったとしたら真相解明とともに、社会の安全や公平性を守る刑事司法の目的に反しよう。
(略)
被告の逃亡先のレバノンと日本の間には犯罪人引き渡し条約は結ばれておらず、レバノン政府の理解を得られないと、被告は引き渡されないという。
レバノン側に働きかけるのはもちろん、国際的な手配など、あらゆる手段を講じ、被告に法廷で真相を語らせなければならない。
(略)
「外圧に屈しての保釈判断」はあってはならない。ただ、致命的な問題がある。
それは、「弁護側の責任も重い」だとか「弁護側は保釈後の国内住居に監視カメラを設置するなどの条件を提示して保釈決定に結びつけた(略)だが結局、海外逃亡まで許した。悪意を持って企てれば、保釈にどんな条件や手立てを講じても無になる。それが分かっても遅きに失した」と、弁護側を非難していることである。
弁護側(刑事弁護人)の仕事は、被疑者・被告人の権利を守ることであり、保釈決定を勝ち取っていることで責任が果たされている。だから、弁護側の責任ではない。
次は東京新聞2020年1月4日社説「ゴーン被告の逃亡 司法への挑発と忠告」。
世界が注目していたゴーン事件だっただけに、このような展開は残念である。無実ならば正々堂々と裁判で決着させる道を選択すべきだった
の部分だけはとんちんかんだが(被告人が保釈の条件を破って出国しただけだから)、その他は妥当なので、ぜひ東京新聞のサイトでご堪能いただきたい。
3番目は毎日新聞2020年1月5日社説「ゴーン被告の国外逃亡 司法の基盤揺らぐ事態だ」
国際的に注目を集める事件で、被告に国外逃亡されたことは、司法・関係機関全体の失態と言える。
の「機関」が気になる。弁護人を除いているならば正しい(社説の内容もそうである)。また、
今回のケースを保釈のハードルを上げる動きにつなげるべきではない。
の指摘も正当である。
最後は、読売新聞2020年1月5日社説「ゴーン被告逃亡 逃げ得を許してはならない」
(前略)
そもそもゴーン被告が保釈を認められたのは、海外渡航禁止に加え、パソコンの使用制限や住居への監視カメラ設置などの厳しい条件が評価されたためだ。弁護団は「逃亡はあり得ないシステムを提示した」と自賛していた。
条件を守らせることができず、結果としてゴーン被告の海外逃亡を許した。弁護団の責任は極めて重いと言うほかない。(以下略)
産経新聞と同じく間違えちゃった。別に弁護団が守らせるんじゃないって。
産経新聞も(「東京地裁はゴーン被告の保釈を取り消した。~それが分かっても遅きに失した。」)読売新聞も(「そもそもゴーン被告が保釈を認められたのは、~弁護団の責任は極めて重いと言うほかない。」)、なぜか2段落かけてゴーンさんの弁護人を非難しているのでそれを強調していると解釈するが、被告人が保釈条件を守らないのは被告人のみの責任なので(だから保釈金が没取(刑事訴訟法第96条第2項)されるにすぎない)、間違い。産経新聞や読売新聞、またそれを肯定的に評価する自称保守の人は、刑事訴訟法の本でも買って勉強したほうがいいだろうな。