まずは、北海道新聞電子版「法相、定年延長「法的問題なし」 黒川検事長人事で予算委答弁」(2020年2月3日18時36分。以下*1)をご覧いただこう。
*1によると、
検察庁法は、定年を検事総長は65歳、それ以外の検察官は63歳と定めているが、定年延長の規定はない。森氏は「検察庁法は国家公務員法の特別法。特別法に書いていないことは一般法の国家公務員法が適用される」と説明した。
とのこと。
一方、朝日新聞デジタル「検察官は定年延長「適用されない」 39年前に政府答弁」(2020年2月10日20時20分。有料記事。以下*2)をご覧いただこう。
*2によると、
衆院委でこの日質問に立った立憲民主党の山尾志桜里氏は、定年や定年延長を導入する国家公務員法改正案が審議された1981年の衆院内閣委員会での政府答弁を紹介。議事録によると、当時から定年制があった検察官や大学教員にも適用されるか問われた人事院任用局長(当時)が、「今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。定年制は適用されない」と答弁していた。
という。
ここで、私見というか、筆者の思考過程を(条文については、『ポケット六法』(有斐閣。令和2年版)を参照)。
まず検察庁法第22条を。
検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三歳に達した時に退官する。
次に国家公務員法を。
実は、検察官は、一般職である。というのは、国家公務員法第2条第2項には
一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。
とあり、同第3項の「特別職」に、検察官は入っていないからである。もっとも同第4項を。
この法律の規定は、一般職に属するすべての職(略)に、これを適用する。人事院は、ある職が、国家公務員の職に属するかおよび本条に規定する一般職に属するか特別職に属するかを決定する権限を有する。
そして、一般職の定年はどうなっているか。先ずは国家公務員法第81条の2・第1項を。
職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(略)に退職する。
次に、国家公務員法第81条の2・第2項を見てみると、
前項の定年は、年齢六十年とする。(以下略)
なお、同第1号から第3号に、検察官が該当しないことについては、人事院規則11-1(漢数字をアラビア数字に改めた)参照。
国家公務員法第81条の2・第1項の「法律に別段の定めのある場合」に、検察庁法第22条が該当すると読むのが、筆者の私見であるが、素直だと思う。
したがって、国家公務員法第81条の3・第1項
任命権者は、定年に達した職員が前条第1項により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情から見てその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲で期限を定め、その職員が当該職務に従事させるために引き続いて勤務させることができる。
の「前条(国家公務員法第81条の2のこと。筆者注)第1項により退職すべきこととなる場合」に該当しないと読むのが素直だと思う。
先ほど、国家公務員法第2条第4項を挙げたが、国家公務員法の適用について人事院に権限があることから考えると、*2の朝日新聞デジタルの記事にある、当時の人事院任用局長の「『今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。定年制は適用されない』」というコメントは重要で、現在の政府の答弁が妥当な理由を見出しがたい。
というわけで、当ブログの結論としては、黒川弘務検事総長の定年延長は法的根拠がないとなる。これは税金が関わる問題でもあるから(俸給が出る)、些細であると片づけるわけにはいかない。