紙の読売新聞2021年10月20日統合版を見てみると、以下の見出しが目についた。
①「中傷投稿 AIで防止 ヤフーニュース コメント欄非表示に」(13版8面)
②「ネット中傷『泣き寝入り』阻止」(12版9面)
インターネット上の中傷を取り締まる方向の記事である。
まず言葉の定義の確認。
誹謗とは - コトバンクによると、「他人を悪く言うこと。そしること」(デジタル大辞泉)であり、 中傷とは - コトバンク によると、「根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけること」である。
中傷は悪いに決まっている。根拠があっても、例えば名誉毀損罪が成立する(刑法第230条。同第230条の2で免責されない場合がある)のに、ましてや根拠がないのはダメである。
しかし、誹謗はどうだろう?問題がある発言を問題があると厳しく書くことも「誹謗」になりかねない。
「Yahoo!ニュース、コメント欄の健全化に向けた取り組みを強化」は
https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2021/10/19a/ (2021年10月19日のプレスリリース)からアクセスできるが、「これまで以上に誹謗中傷への厳正な対策を講じる」と明記されている。となると厳しい非難がダメになってしまう可能性がある。つまり、「誹謗中傷」という基準は、まずい。
詳しくは、小林健司『最新差別語・不快語』(にんげん出版、2016)を読んでほしいが、差別語や不快語でさえ絶対に使ってはいけないわけではない。要は内容次第になるが、差別語や不快語でも区別は容易ではない。ましてや正当な言論の可能性がある誹謗は言うまでもない。
こういうのは、〇〇だからルール違反の投稿である、と説明できるものに限って削除するといった対応しかないであろう。それができないなら被害に遭う当事者(差別語や不快語であれば読者でも指摘可能だと思う)の訴えしかないと思う。この点で②の記事の見出しにある「『表現の自由』委縮課題」というのは正当な問題意識である。
ともあれ、誹謗中傷を許さないという合言葉の下に、正当な言論が抑圧されることの内容にしてもらいたいものだ。