清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

共同親権 だから起こった 出来事か(2023年1月21日追記)

 今日の検討の素材は、文春オンライン「《名誉毀損で元棋士逮捕》『無差別殺人起こして自殺したるわ』元妻の名前と住所を晒したA級棋士・橋本崇戴(39)が呪った「世の中」と「将棋界」」(2023年1月19日)である。

bunshun.jp

以下、ところどころ引用してみよう。

 

「橋本さんは2017年に結婚をしているのですが、2019年に奥さんが突如家を出てしまったんです。その時に子どもを連れていってしまったようで、それ以降、橋本さんは子どもと会いたくても会えない状況が続いていたようです。橋本さんは『連れ去りだ』と強く反発し、結局親権をめぐるトラブルに発展してしまいました。(以下略)」*1

 

 これが事実だとすると、いわゆる実子誘拐にはならない。簡単なことで、妻にも居所指定権(民法第821条)があるからである*2民法の欠点は、この事例みたいに、夫と妻の親権の行使が一致しない場合の調整規定がないことである*3

 

 日本の民法では離婚が成立した場合、どちらか片方の親のみが親権を持つ「単独親権」制度が採用されている。また、親権には「母親優先」や「現状維持」といった原則がある。母親が子供を連れ去った橋本容疑者のケースでは、元妻に親権が認められた。*4

 

 筆者が調べた限りでは、「親権には『母親優先』や『現状維持』といった原則がある」の法的根拠がない。離婚時の親権は大半が母親が持つのが現実も、それは別の話である。当ブログ「なぜダメか よくわからない 共同親権」をご一読。

kiyotaka-since1974.hatenablog.com

 

「橋本さんは引退を表明して間もなく共同親権を呼びかける運動を始めました。『子どもの連れ去りは犯罪だ』とかなり強い口調で演説していましたね。(以下略)」*5

この通りなら、橋本*6は、正常に判断できなかったのではないか。共同親権だから居所指定権について両親の意見が一致しない場合の調整規定がないのが問題なわけで、婚姻時でも離婚時に共同親権を採用しても変わらない。また、単独親権の現在においても、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父または母と子の面会およびその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める」(民法第766条第1項)となっているので、子に会いたいのであれば妻と話し合えばいいだけのことだからである。

 

 筆者は、理念的には離婚時の共同親権を支持する者であるが、橋本の主張を実現させるのであれば、共同親権の実現は必要なく、現行法の範囲内で話し合うべきであった。

 

 将棋棋士・橋本で筆者が思い出すのは2つ。第1に、山崎隆之八段、松尾歩八段、阿久津主税八段*7、そして橋本で「残念4兄弟」と名付けたこと*8。もう1つは、先手76歩→後手34歩が流行したときに、3手目66歩にこだわったことである。矢倉か振り飛車を志向する指し方は、当時のアマチュアにとっては参考になったことだろう。将棋棋士としてセンスのあった人なだけに、残念である。

 

*お詫びと訂正-2023年1月21日

 

 筆者は、本稿で、

 これ(上記文春オンラインの引用。筆者補足)が事実だとすると、いわゆる実子誘拐にはならない。簡単なことで、妻にも居所指定権(民法第821条)があるからである

と書いたが、誤りがあった。

 

 妻に居所指定権があっても、未成年者略取及び誘拐罪が成立し得る。最高裁平成17年12月6日決定*9によると、

最高裁平成17年12月6日決定の事例においては。筆者補足)行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり,被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される

とし、その連れ去り行為が「家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるもの」でない限り違法性を阻却しないというのが最高裁判例である。

 

 したがって、「これが事実だとすると(略)妻にも居所指定権(民法第821条)があるからである」を、以下のように訂正する。

 これが事実だとすると、実子誘拐(刑法第224条の未成年者略取誘拐罪)が成立する場合があるが、その判断は、その連れ去り行為が「家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまるもの」(最高裁平成17年12月6日決定)か否かで決まる。それとは別に、(以下、本文と同じなので、略)

 

 筆者の裁判例のチェックが甘いが故のミスで、読者に迷惑をかけて、申し訳ありません。

*1:文春オンライン「《名誉毀損で元棋士逮捕》『無差別殺人起こして自殺したるわ』元妻の名前と住所を晒したA級棋士・橋本崇戴(39)が呪った「世の中」と「将棋界」」2ページ目

*2:文末で訂正する。

*3:親権喪失の審判(民法第834条)、親権停止の審判(同第834条の2)、管理権喪失の審判(同第835条)はあるが。

*4:*1の3ページ目。

*5:*4に同じ。

*6:本稿も文中敬称略。

*7:ここまでの棋士の紹介は棋士番号順。日本将棋連盟HP「棋士データベース」参照。

https://www.shogi.or.jp/player/

*8:タイトルを獲得するなどの活躍がなかったことについて。なお、松尾八段以外はA級在籍経験も、残留経験者はいない。

*9:全文(補足意見、反対意見を含む)はこちらから。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/081/050081_hanrei.pdf