タイトル通りだが、匿名の多用をする日本のマスメディアはひどいという話。
2023年1月15日の毎日新聞デジタル「政治プレミア」に、政治部記者の大貫智子が書いた「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」が問題を起こしていることにつき、reseachmap「大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について」(一橋大学大学院社会学研究科准教授 加藤圭木/一橋大学名誉教授 吉田裕。2023年2月16日)をまずはご一読。
以下、気になる部分を引用しつつ検討する。
ゼミ書籍*1は、「大貫コラム」のタイトルのように「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべき」といった主張をしたものではなく、韓国文化を楽しむか否かにかかわらず加害の歴史に向き合うことを訴えたものです*2
とあるが、筆者が読んだ限りでは、加藤が否定している読み方をされても仕方がないと思った。筆者がアマゾンでレビューした「内容は いいが「モヤモヤ」 残る本」
https://www.amazon.co.jp/review/R328F1BUU3TSEN/ref=cm_cr_srp_d_rdp_perm?ie=UTF8&ASIN=4272211250 をご覧あれ。
学園祭イベントは、2022年11月19日(土)に一橋大学の学園祭の一企画として加藤ゼミ主催で開催されたものです。事前申込制とし、対面での開催に加えて、オンライン配信(中継および後日配信)を実施しました。
(中略)
学園祭イベントは、ゼミ書籍を読んで理解してくださっている方々を主たる対象として企画したものでしたので、その内容が不特定多数に発信されることを前提としたものではありませんでした。*3
これは大事なところで、本記事のように加藤の記事を引用しつつ論じるのは問題ないが、学園祭イベントは公開を前提としているわけではないので、取材もせずに取り上げていいことにはならないのである*4。
大貫氏は次のようにゼミ書籍を批判しました。
「この本に対しては、日韓関係の専門家から「学生の問題意識は良いが、結論がバランスを欠いている」という指摘が出ていた。参考文献が日韓の左派系識者の著書に偏っており、韓国全体を正確に理解するには不十分なためだ。」*5
何で「『日韓関係の専門家』」が匿名でいいの? 筆者は有料部分を見ていないので加藤の見解*6を正しいとして進めるが、誰かがわからないと、どういう主張をしているかもわからないわけであり、判断ができない。「ゼミ側への謝罪」にある「ゼミ生の側は特定可能な形で報じられたのに、『日韓関係の専門家』は匿名で批判しており不公平である」*7が全くの正論で、著作も出しているであろう専門家が匿名で、公開を前提としていないイベントの参加者が特定できるということが許されるわけがない。
以上、reseachmap「大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について」を一通り検討したが、*8匿名やむなしの実例は、例えば『その名を暴け(略)』(ジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイ、新潮社、2020)にあるような、被害に遭うことが予見できる場合などであろう。その場合においてもニューヨーク・タイムズの記者は実名を載せることにこだわっていたのである。日本のメディアも、取材対象者を匿名とすることに対してもう少し慎重にすべきではないだろうか。一方、被疑者段階で実名にするのは矛盾しているうえに、被疑者を害する可能性があるので原則としてやめた方がいいことも付記しておく。
*1:『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(加藤圭木・監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール・編、大槻書店、2021)のこと。
*2:「大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について」
*3:同前。
*4:本文で取り上げた加藤の記事を引用しつつ論じることは、著作権法第32条第1項「公表された著作物」の利用なので問題はないが、大貫のしたことはその要件を満たさないということ。あくまで私見で、加藤の問題意識と違う可能性がある言ことをお断りしておく。
*5:「大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について」
*6:「『日韓関係の専門家』」の実名が記されていないこと。
*7:大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について」
*8:
2023年2月18日にエントリーした文章の最後の段落、「『性的少数者や同性婚をめぐって(略)』~民主主義社会においては顕名で当然のはずである。」の部分は、本記事の趣旨と何ら関係ありませんでした。筆者が確認した、コトバンク「オフレコ」
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%83%AC%E3%82%B3-221847 について勘違いしていました。当該部分を削除して、お詫びいたします。