某日、『歴史学のトリセツ 歴史の見方が変わるとき』(小田中直樹、ちくまプリマー新書、2022。以下『歴史学のトリセツ』と表記)を読了した。
主な内容は、歴史学説史。ランケ学派が主流なのは揺らいでいないが、時代によってほかの学派が出てくる様は面白いので、興味のある方はご一読ください。
ところで、『歴史学のトリセツ』p.114に以下のような記述があるので、検討する。
この多数派*1と少数派*2の力関係は、脱植民地化後も続きます。旧植民地は、政治的には独立したかもしれませんが、旧宗主国に対して、経済的に従属したり、社会的に労働力(移民)の供給源となったり、文化的に「多数派の優越性を引き立てる劣等な少数派」とイメージされたりするという役割を割り当てられつづけました。旧植民地は、独立後も少数派の位置にとどまったのです。
まずは、「経済的に従属」について。日本の植民地だった、台湾、ならびに、朝鮮半島のうち、大韓民国(韓国)について調べたところ、違うようである。
台湾については、以下、2つのサイトを参照した。
①*3貿易ドットコム「台湾貿易・輸出の基礎知識(2022年更新)」(2022年12月6日)
②JETRO(日本貿易振興機構)「台湾 概況・ 基本 統計」(2022年7月29日最終更新)
台湾は、2020年も(①)2021年も(②)輸出相手国第4位、輸入相手国第2位が日本である。
韓国については、以下のウェブサイトを参照した。
③Dijima(出島)「韓国貿易の基礎知識 | 貿易相手国ランキング・米国および各国FTAの状況・新型コロナの影響」(2023年3月20日)
④世界経済のネタ帳「韓国の貿易」(2023年7月3日アクセス)
③、④とも2017年のデータだが、輸出相手国第5位、輸入相手国第2位であるから、「経済的に従属」とは言えないのではないか。
次は、「社会的に労働力(移民)の供給源」のところだが、これも非該当である。厚生労働省HP「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)」からアクセスできるpdfファイル「別添2 『外国人雇用状況』の届出状況まとめ【本文】(令和4年10月末現在)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001044543.pdf によると、ベトナム、中国、フィリピンの順で、その他を除いて韓国は第8位である。台湾は「その他」であり*4、人数は調べていないが、これも該当しない。
最後に「文化的に『多数派の優越性を引き立てる劣等な少数派』とイメージされたりするという役割」について。
筆者はK-POPをよく聴くし、「パラサイト」が第92回(アメリカの)アカデミー賞の作品賞を受賞した*5。このことから、日本の流行音楽や映画の「『優越性を引き立てる劣等な少数派』」の作品であるという見解は寡聞にして聞かない。もしそうであれば、流行音楽において、例えばMTVのカテゴリーにK-POPなどできるわけがない*6。というわけで、これも該当しない。
なんだ、小田中直樹はウソを書いているじゃん、と早合点してはいけない。たまたま日本に該当していないだけである。筆者未調査だが、ヨーロッパが宗主国の場合だとまた違うのだろう。とにかく面白い本なので、『歴史学のトリセツ』、ご一読ください。
*2:植民地のこと。
https://websearch.rakuten.co.jp/
)の表示順。
*4:「中国(香港、マカオを含む)」としか書いていないことから判断。
*6:2019年に『K-POP』のカテゴリーはできたが、例えば「J-POP」や「Asian」の中に含まれているということはない。当ブログの検索窓に「MTV K-POP」を打ち込んだ結果のアドレスを示す。
https://kiyotaka-since1974.hatenablog.com/search?q=MTV%E3%80%80K-POP