清高の ニュースの感想 令和版

題名川柳・内容超一流!

「傾聴」は したが一人で 抱え込み?

岩手県紫波郡矢巾町の中学2年の男子生徒がJR矢幅駅で列車にはねられて死亡した件、当該生徒がいじめを受けていたことが、各種報道で、ノートの存在とともに報じられている。

 
中学2年時の担任との生活記録ノートのやりとりが、河北新報ONLINE NEWSに載っている(2015年7月12日。http://photo.kahoku.co.jp/graph/2015/07/12/01_20150712_33028/002.html
)。
 
それどころか、岩手日報「中2男子生徒の「SOS」1年以上 矢巾、死亡から1週間」(2015年7月12日。http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20150712_4
)によると、「男子生徒は入学直後の昨年4~5月から他の生徒とのトラブルを記載し始め、同5月には「もう限界です」と記述。3学期には「死にたいと思ったときがけっこうありました」と記した」という。
 
中学1年時のノートの詳細は見ていないが、「「死にたいと思ったことが結構ありました」」とだけ書いてあるとすれば、おそらく峠を越えたと判断したのだろう。
 
戻って、自殺〈公文書では「自死」とすべきと見聞するが、一般的に使われているので「自殺」を用いる〉した中学校2年の生活記録ノートを検討する。
 
ところで、文部科学省は、平成21年3月に、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」というパンフレットを出している。http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2009/04/13/1259190_12.pdf#search='%E8%87%AA%E6%AE%BA%E4%BA%88%E9%98%B2
 
「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」によると、「5 対応の原則」として、「TALKの原則」を掲げている。
T=Tell:言葉に出して心配していることを伝える。
A=Ask:「死にたいという気持ちについて、率直に尋ねる。
L=Listen:絶望的な気持ちを傾聴する
K=Keep safe:安全を確保する
 
また、「6 対応の留意点」で、「1)ひとりで抱え込まない」、「3)「秘密にしてほしい」という子どもへの対応/子どもが「他の人には言わないで」などと訴えてくると、ひとりだけで見守っていくというような対応に陥りがちです。自殺の危険はひとりで抱えるには重過ぎます。子どものつらい気持ちを尊重しながら、保護者にどう伝えるかを含めて、他の教師ともぜひ相談してください」
 
更に「7 まとめ」として、「誰かがひとりだけで自殺の危険の高い子どもを支えることはできません。きめ細かな対応を進めていくには、学校におけるさまざまな役割を担った教職員の間で十分な連携を図ることが大切です」、「また、学校、過程、他の関係機関〈病院のマークや白衣がある。筆者注)、地域の人々がそれぞれの立場で協力して、子どもが危機を乗り越えるのを手助けする必要があります。それぞれの能力と限界を見きわめながら、子どもを守るという視点を忘れずに、協力体制を築くことを考えてみてください」とある。
 
それに加えて、文部科学省HPでは、「子どもの自殺予防」についての資料が充実している。
本エントリーでは検討しないが、より詳しく知ることができるだろう。というわけで、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」に基づいて、中学2年時の担任との生活記録ノートのやりとりを検討する。
 
4月20日「死にたいぜ☆」に対しての担任の記述「みんな同じ(略)がんばれ」は問題かもしれない。河西千秋『自殺予防学』(新潮選書、2009)p189、表23の「安易な激励:がんばれ」になっているから。この時点では、学校間での情報の共有がなかったことが伺われるが、中学1年時の峠を越えた、という旨の判断の共有がないとも言えない。
 
5月13日「氏にたい」につき、「いろいろ言われたのですね。全体にも言おうと思います。失敗した人を責めないように」と担任は記述。TALKの原則のLはできていると思う(「いろいろ言われたのですね」から判断)。
 
6月5日の担任記述「先生が代わりに言います」は安請け合いの可能性もあれば、TALKの原則違反ではないとも言える。
 
6月8日の担任記述「そんなことがあったの?それは大変、いつ??解決したの?」も、きちんと傾聴しているようにしか見えない。
 
6月10日の担任記述「まず体を今は治すように」も問題あるようには見えない。
 
6月28日「ぜったいだれにも言わないで」に対する担任記述は、正直担任のショックが感じられた内容。「元気を出して」というのは『自殺予防学』p189表23の「安易な激励」だと思う。
 
6月29日「市ぬ場所は」云々に対し、担任「明日からの研修たのしみましょうね」は、話題をそらそうとしているのはわかる。ただ、筆者調べでは、直感的で恐縮だが、妥当だとはいえないと思っている。
 
この件につき、生徒の父親は「「先生から電話は1本もなかった」」(河北新報ONLINE NEWS「<矢巾中2死亡>いじめ?ノートに死にたい)(2015年7月8日。http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201507/20150708_33018.html
)と発言しているし、「ノートの内容は校内で共有されず、学校として対応していなかった」(NHK NEWS WEB「中2男子自殺 ノートの内容 校内で共有されず)(2015年7月8日10時5分。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150708/k10010142981000.html
)という。
 
ノートと報道を合わせて見た限りでは、担任の先生は概ね誠実に対応していたようだが、一人で抱え込んだ上に動揺してしまった様が見て取れた。尾木ママ尾木直樹)流の「「学校犯罪ですよ」」のほうがむしろ「ノーテンキ」(ともに日刊ゲンダイ「岩手中2自殺 いじめ訴え無視した女性教師に尾木ママも激怒)(2015年7月10日。http://nikkan-gendai.com/articles/view/news/161584/
)に見えた。もちろん、学校側に自殺を予防できなかった責任はない、などと言うつもりは毛頭ないが。
 
今回の事件の、現時点での教訓としては、教師は自殺をほのめかした情報に接した時は、一人で抱え込まずにチームで対応し、保護者に連絡すべき、ということになろう。
 
*文章敬称略
**なお、本エントリーは、医師が書いたものではありません。内容が専門的に問題があれば、ご教授くだされば、幸いです。